翔ちゃん先生の犬の飼い方コラム

第40話

病気

病気の話 〜栄養素の話〜

栄養素の話

まず栄養素の話から始めます。やや講義風になることをお許しください。面倒な場合は斜め読みで結構ですし、タイトルだけで取捨選択してお読みになられても構いません。

犬の三大栄養素といえば、蛋白質、脂肪、炭水化物です。これにビタミン、ミネラルを加えると五大栄養素になります。「人間と同じじゃないか」との声が聞こえてきそうです。そうです、必要な栄養素はまったく同じなのです。同じ哺乳動物です、そんなに違う訳がありません。でも、犬が必要とする栄養素は、その比率が人間とは異なることを忘れないでください。人間は草食性の強い雑食であり、犬は肉食性の強い雑食です。根本的に食を体内に取り入れるメカニズムが違うのです。

蛋白質

犬といえば、やはり肉(蛋白質)です。毛、皮膚、爪、筋肉、腱、靭帯、軟骨等を形作るアミノ酸を供給するのが蛋白質です。ホルモンの生成にも重要です。

ドッグフード中には、ほとんどの場合動物性と植物性の二つの蛋白質が入っています。ドッグフードの蛋白源は肉だけだと思ったら大間違いなのです。安価なフードには大量の植物性蛋白質が使われています。動物性蛋白質は犬に必要な必須アミノ酸をすべて含んでいますが、植物性蛋白質に含まれる必須アミノ酸は限られています。植物性蛋白質の限界です。蛋白質の項ではこのあたりを深く掘り下げてみましょう。

脂肪

脂肪は三大栄養素の中でグラム当りの熱量が高く、いわば熱源となります。脂肪の摂取は体温維持に役立ちます。その他、犬の体内で作ることができない必須脂肪酸を供給したり、臓器の保護、細胞膜の形成、ホルモン生成の材料になったりします。脂溶性ビタミンの吸収にも一役買います。

皮膚や被毛を美しく保つために脂肪が必要です。必須脂肪酸が健康な被毛を作るのです。必須脂肪酸は動物性脂肪より植物油に豊富なようです。かといって、脂肪を過剰に含むフードではおなかがゆるくなります。体表の毛(コート)が美しくなっても、お尻の周りの毛が下痢便で汚れていては興ざめです。ある有名ブランドのフードに脂肪含量が高い製品があります。確かにコートはピカピカになるかもしれませんが、下痢を誘発しやすくなります。それから脂肪過多は肥満の原因にもなります。

炭水化物

炭水化物は即効性のエネルギー源です。不足するとエネルギー不足で疲れやすくなります。かといって、過剰だと肥満を招き様々な疾病へとつながっていきます。

ビタミン

ビタミンは体調を整えるのが役割です。水溶性ビタミン(B、C)は、それが過剰な場合は体外へ排泄されますが、脂溶性ビタミン(A、D、E、K)は体内に蓄積されます。脂溶性ビタミンの過剰摂取には注意が必要です。それから、人間とは異なり、ビタミンCは犬の体内で生成されます。健康な犬では必要のないビタミンとされています。

ミネラル

ミネラルも体調を整えるのが役割です。必要量は極めて微量です。しかし、なくてはならない栄養素です。犬で必要なミネラルは11~12種だそうです。ただ、ミネラルの過剰摂取は害があるものが多いことを忘れてはなりません。ミネラルはバランスが重要です。

水分

五大栄養素を“はじめに”の項に記載しました。これに水を含めて六大栄養素という人たちもいます。水は体液平衡をつかさどる重要な成分です。きれいで新鮮な水をいつでも飲めるようにしておくのが飼主の務めです。人間に適した水は犬にも適しています。ただ、検査をしていない井戸水などは要注意かもしれません。

水分不足での脱水は、消化器系、呼吸器系、泌尿器系に致命的な打撃を与えることがあります。動物は、体内の総水分の10%が失われると危篤状態となり、15%が失われると死に至るとされています。夏場、ちょっとした油断から熱中症で脱水症状を呈し、天国に旅立った犬達の訃報を聞くことがあります。とても重苦しい気分になります。

さて、犬はどのようにして水分を体内に取り込むのでしょう。一つはすぐにわかります。飲水です。水の容器からがぶがぶと飲んで水分補給します。それから食事の中の水分があります。これら二つをあわせて“摂取水”といいます。摂取水以外に“代謝水”と呼ばれる水分もあります。これは、炭水化物、脂肪、蛋白質がエネルギーとなるときに放出される水素が、酸素と結合して体内でできる水です。

一般的に、健康な犬が一日に必要な水の量(mL/日)は、一日に必要なエネルギー量(Kcal/日)とほぼ等しいといわれています。ただし、摂取量が多くなることもあります。それは、食塩・電解質の摂取量増加、運動・気温による体温調節活動の増加、発熱、授乳、下痢、出血、多尿による体液喪失の増加などによります。

エネルギー 〜その1〜

食事はエネルギーの源です。エネルギーという概念を少しだけ勉強しておきましょう。

エネルギーを供給する栄養素は、炭水化物、脂肪、蛋白質です。エネルギーは定規などで測定できません。熱に置き換えてその量を知ることができます。食べ物のエネルギーはそれを完全燃焼(酸化)させたときに産生される熱量で表すことができます。単位はKcal(キロカロリー)です。

それぞれの食べ物が持つエネルギーを総エネルギー(GE)といいます。犬は口から入った食べ物のエネルギーをすべて吸収できるわけではありません。吸収できなかったエネルギーは糞便中に排泄されます。総エネルギー(GE)から糞便中のエネルギーを差し引いたものを可消化エネルギー(DE)といいます。
つまり消化・吸収ができたエネルギーです。吸収したエネルギーもすべてが利用されるわけではありません。
利用されずに尿中に排泄されるエネルギーがあります。可消化エネルギー(DE)からこれを差し引きますと、それが代謝可能エネルギー(ME)です。食べ物の消化、吸収及び利用のときにもエネルギーが消費されます。代謝可能エネルギー(ME)からこれを差し引いたものが正味エネルギー(NE)です。正味エネルギー(NE)が、体を維持するため、そして生産(発育、授乳、運動など)に用いられます。体を維持する以上の正味エネルギーがないと生産に関わる活動はできません。

  • GE=食べ物の完全燃焼(酸化)によって得られる熱
  • DE=GEー糞便中のエネルギー
  • ME=DEー尿中に排泄されるエネルギー
  • NE=MEー消化・吸収・利用で消費するエネルギー

犬の食事を考えた場合、最も役立つエネルギーの測定値は代謝可能エネルギー(ME)です。MEは、食事のエネルギー成分中、体内に保持され利用できる部分です。食事の中のエネルギーも、体内を素通りしたり、吸収されても利用できずに排泄されたりすると、なんの価値もありません。体内で利用されてその意味が出てきます。

ドッグフード原料の正確なME値は実験で求められてはいないことが多いようです。他の単胃動物(しばしば豚)での値を参考として推定しています、犬用としてある程度修正している場合もあるようですが。

蛋白質、炭水化物、脂肪が完全に酸化した場合の総エネルギー(GE)は、それぞれ5.65、4.15及び9.4Kcal/gです。代謝可能エネルギー(ME)はそれより小さな値となります。
人間の場合、蛋白質と炭水化物のMEは4Kcal/g、脂肪は9Kcal/gです。犬ではやや効率が悪く、蛋白質と炭水化物で3.5Kcal/g、脂肪は8.7Kcal/gとされています。なお、繊維質、水分、灰分は0Kcal/gです。

MEがわかるとフードの成分表からカロリー計算をすることができます。ただし、フードの表示は保証成分比率です。つまり“これ以上入っている”、あるいは“これ以下にしている”という保証値です。実際の分析値ではありません。本当は分析値からフードのカロリー計算をしなければなりません。ただ、保証成分表から%がわかる場合、
それから求めた総カロリーに、ドライ及び半生フードでは1.1を乗じ、缶詰では1.2を乗じればよいそうです。

多数の製品の保証値と分析値の比較から得られた係数です。

ちょっと試してみましょう。あるドライフードです。まず、各成分の保証値(%)に成分毎のMEを乗じ、100g当りのカロリーを求めます。それを合計します。表の場合、合計は333.8Kcalです。これに1.1を乗じます。367.18です。このフードのMEは367Kcal/100gとなります。

栄養素の話(エネルギー 〜その2〜)

今度は犬側からエネルギーを考えてみましょう。

温和な気温で、基本的生命活動を行うのに必要なエネルギー量を“基礎エネルギー必要量(BER)”といいます。
よく“基礎代謝”という言葉を聞きますが、これと同じです。BERは体表面積に比例します。つまり体表面績が大きいほど(体格が大きいほど)エネルギーが必要です。なぜなら、生体に利用されるエネルギーの大部分は熱として体表から発散されるからです。ただし、単位体重当りの体表面積となりますと、逆に体格が小さいほど大きくなります。BERは体表面積1平方メートル当り約1,000Kcalとされています。

BERに通常の活動(体重維持のための食べ物の摂取とその利用)に必要なエネルギーを加えたものが、“維持エネルギー必要量(MER)”です。MERは、それなりの活動をしながら、体重を維持するのに必要なエネルギー量といえます。

犬のMERはBERの約2倍です。犬らしく生きるためには、ぐうたら生活の約2倍のエネルギーが必要だと覚えましょう。猫のMERはBERの約1.4倍です。猫族は犬族ほど活動的ではない、つまりぐうたらだともいえます。そういえば、猫族の方が日向ぼっこをしながらの昼寝が得意なような。

同じ“成犬”と表現しても、犬種によって体重は様々で、エネルギー要求量も違ってきます。体重1kgの犬では132Kcal(132Kcal/kg)、10kgの犬では742Kcal(74.2Kcal/kg)、60kgの犬では2,844Kcal(47.4Kcal/kg)です。また体型によっても体重当りのエネルギー要求量が違います。

成長、妊娠、泌乳、労働など、他の生産活動がある場合は、プラスアルファのエネルギーが必要になりますし、あまりに怠惰な生活をする個体(活動性の低い個体)ではエネルギーを差し引かねばなりません。“働かざる者、食うべからず”です。下表のようにMERに係数を乗じて、体重維持に必要なエネルギー量を算出します。なお、病気の場合は基礎エネルギー必要量(BER)に適切な疾病係数を乗じます。

ほとんどのフードにはカロリー表示がしてあると思いますが、これは任意表示です。カロリー表示がないフードもあります。ただ、給与方法(給与量、給与回数等)は表示義務があります。

栄養素の話(蛋白質 〜その1〜)

“必須アミノ酸”という言葉があります。体内で十分な量を合成することができず、食事から得なければならないアミノ酸のことです。一方、体内で必要量を合成できるアミノ酸は“非必須アミノ酸”と呼ばれています。

アミノ酸(αアミノ酸)には22種類があり、動物の生命活動にはこれらすべてのアミノ酸が必要です。ただ、犬では12種類については体内で作り出すことができます。残りの10種類は食事からです。ゆえに、食事中の蛋白質の役割は、まず必須アミノ酸の供給がありますし、非必須アミノ酸を体内合成するための窒素源を供給することにあります。

牛などの草食動物は消化管の中の微生物がほとんどのアミノ酸を合成し、これを利用することができます。しかし、犬・猫などの非草食動物の消化管でのアミノ酸合成は極めて微量です。ということで、頼りになるのは食事中の必須アミノ酸となります。

犬では必須ではありませんが、猫ではタウリンというアミノ酸が必須です。猫体内で胆汁が作られるときに使われるアミノ酸です。胆汁とともに腸管に出て行きます。通常は腸管から肝臓へ戻る循環機構がありますが、猫では循環が100%ではありません。結局、糞便中に排泄され不足してしまいます。ゆえに食べ物から補給しなければならないのです。植物性食物にはタウリンはほとんど含まれていません。動物性食物からタウリンを補給しなければなりません。猫族が“真の肉食動物”といわれる所以がここにあるのかもしれません。

蛋白質の品質はそこに含まれるアミノ酸の数と量に比例します。品質を考えるときに、生物価、あるいは生物値という“ものさし”を使うことがあります。「健康な成犬は1日に体重kg当り約3gの生物価の高い蛋白質を必要とする」などと使われます。さて、生物価ですが、口から入った蛋白質が体内に留保できる量を消化・吸収できる量で割って算出します。エネルギーの項を思い出してください。代謝可能エネルギー(ME)を可消化エネルギー(DE)で割ったようなものです。

ある蛋白質を犬が100g食べるとします。すべて消化・吸収できればよいのですが、20gは糞便に出て行きます。80gが消化・吸収されたことになります(消化率80%)。体内に入った80gのうち10gが利用されずに尿中に排泄されたとします。体内で利用できるのは70gです(利用率70%)。70g(利用できる蛋白質量)を80g(消化・吸収できる蛋白質量)で割ります。70÷80=87.5です。この蛋白質の生物価は87.5となります。

生物価の高い蛋白質は犬の体内で利用されやすいと考えればよいようです。蛋白質要求量が100gの場合、生物価100であればそのまま100gで事足ります。しかし、生物価87.5だと114g、生物価50だと200gが必要になります。生物価が低い蛋白質原料では、必要分だけ余計に摂取しなければならないことになります。つまり、生物価の低い原材料を使ったドッグフードでは蛋白質含量を高くしなければなりません。なお、体内に入ったアミノ酸の利用効率は健康であれば大差はないと考えられます。結局、消化率が大きなファクターとなるものと思われます。平均的品質のドッグフードに含まれる蛋白質の消化率は約80%です。低品質のフードでは消化率はもっと低くなります。また、加熱処理は蛋白質の消化率を低下させます。

栄養素の話(蛋白質 〜その2〜)

ドッグフード原料に含まれる蛋白質の生物価を示します。

鶏卵 100
魚粉 92
牛乳 92
レバー 79
牛肉 78
カゼイン 78
カゼイン+メチオニン 100
肉粉と骨粉 50(多様)
大豆粉 67
全麦 48
全コーン 45

表からなにに気がつかれましたか。まず、「へえ~、卵って消化・吸収した蛋白質をすべて利用できるんだ。効率がいいんだ」、それから「植物性の蛋白質の生物価は、動物性よりも低いんだ」でしょうか。

鶏卵は最も生物価が高い(=品質の高い)原料です。かといって、卵だけを蛋白源としてはいけません。鶏卵蛋白質を17.5%含む食事は、子犬の成長に必要なアルギニンの量を満たしますが、アルギニン以外の必須アミノ酸が過剰になります。あるアミノ酸の過剰摂取では欠乏と同様の弊害が起こることがあります。子犬の成長のためと考えて、鶏卵由来の蛋白質だけを与えると、他のアミノ酸が過剰となり逆に成長を低下させることだってあります。
よく「いろんな食材からバランスよく栄養を取らなければならない」といいますが、犬族でも同様です。

既に“はじめに”の項に記載しましたが、市販のドッグフード中の蛋白質は、動物性と植物性から構成されています。両蛋白質の割合の問題になりますが、動物性蛋白質が多ければ、生物価は比較的高く、蛋白質含量は低くて済みます。動物性蛋白質にはすべての必須アミノ酸が含まれていますが(といっても各必須アミノ酸の含有量は原料に依存しています)、穀類の蛋白質は一部のアミノ酸、特にリジン、メチオニン、ロイシン、トリプトファンの含有量が少ないようです。ここでもほどよいバランスが要求されます。

犬が必要とする食事中の最低蛋白質含量(%)は、もし蛋白質の消化率が100%、生物価も100であれば、成犬で4%、子犬で11%です。実際にはそれはありえません。通常のドッグフードでは、成犬で18%、子犬で29%といわれています。なお、当然ながら、成長期、妊娠・授乳期は蛋白質要求量が多くなりますので、これら時期のフードは蛋白質含量が高くなります。

蛋白質を過剰に摂取した場合、余剰の蛋白質(アミノ酸)はエネルギーに利用されます。エネルギーも十分な場合はグリコーゲンまたは脂肪に転換されて体内に蓄積されます。蛋白質から分離されたアンモニアは、肝臓で尿素あるいは窒素性廃棄物に転換され、腎臓からおしっことして排泄されます。窒素性廃棄物があまりにも多いと処理できず体内に蓄積してしまいます。賢明な読者の方々はもうお気づきですね、過剰な蛋白質摂取は腎臓に負担をかけ、ついには腎臓の劣化、腎不全を招いてしまいます。犬=肉(蛋白質)という単純な考えではダメなのです。

蛋白質不足もよくありません。発育遅延、体重減少、生体機能の低下を招きます。被毛の発育も悪く、見た目も悪くなります。低品質のドッグフードを使用したり、炭水化物の多い食事(相対的に蛋白質不足)を与えたりした場合に起こることがあります。

栄養素の話(脂肪)

すでにお話しましたが、脂肪の役割は、①脂溶性ビタミン(A、D、E、K)の吸収を助ける、②必須脂肪酸を供給する、です。それから、③食物の嗜好性も高めます。脂肪の心地よい香りと口当たりのよさが犬の食欲をそそるようです。

脂肪は、蛋白質・炭水化物よりエネルギー効率がよく、エネルギー源として最高です。特に高カロリーを必要とする発育期、授乳期などには非常に便利なものです。

ところが必要以上の高脂肪食になりますと、ちょっと問題が生じてきます。極端な場合ですが、急激に多量の高脂肪食を与えると、急性膵臓炎発症の危険性が高まります。膵臓からはリパーゼという脂肪分解酵素が分泌されますが、摂取する脂肪量があまりに多いとそれを消化しようとたくさんのリパーゼを分泌しなければならず、余計な負担がかかるのです。一般的な市販フードの脂肪含有量では急性膵臓炎までにはいたることはありません。ただ、やや脂肪含有量の多いフードを長期間にわたって与えると、膵臓になんらかの影響が出るかもしれません。市販フードの脂肪含有量は、成犬で5%以上、発育期、妊娠期、授乳期で8%以上とされています。16%を超える高脂肪食は通常必要ありません。ただし、労働犬では必要になるようです。

必須脂肪酸はリノール酸です。オメガ6とも呼ばれます。これは植物油の中に含まれる主要な脂肪酸です。リノール酸含有量の多い植物油としてベニバナ油(73%)、トウモロコシ油(55%)があります。動物脂肪のリノール酸含有率は、鶏と豚の脂肪で15~25%、牛の脂肪、魚油、バターでは5%未満です。リノレン酸(オメガ3)も重要な脂肪酸ですが、犬ではリノール酸からリノレン酸に転換することができます。必須脂肪酸であるからといってたくさん取ることが良いことではありません。例えば、人間の世界では、オメガ6の摂取過多が取りざたされます。血栓症(心筋梗塞、脳梗塞など)、アレルギー疾患、行動異常などが多くなる傾向があるそうです。それから、バランスが大切です。オメガ6とオメガ3が5~10:1の割合が最も良いバランスとされています。

必須脂肪酸が不足すると、繁殖機能が抑制されます、被毛の光沢が喪失し、ふけ症の原因となります。さらに進むと皮膚炎となってしまいます。妊娠中に欠乏すると、新生子の異常や死亡が起こります。

必須脂肪酸不足は、低脂肪のドライフードを与えられている犬、高温・高湿度で長期間保管されたドライフードを与えられている犬に多いといわれています。後者は、保存期間中に脂肪が酸化し、栄養価が低下したことが不足を招いたのです。このためフードには脂肪の酸化防止のための添加物が用いられます。ところが、この酸化防止剤が物議をかもし出しています。

フードに使用する添加物には、栄養バランスを整える栄養添加物、品質保持のための添加物、食欲増進・見栄えのための添加物があります。酸化防止剤は品質保持のための添加物です。脂肪が酸化すると、風味も悪くなりますし、食中毒を起こすこともまれではありません。

動物性脂肪の酸化を防ぐには酸化防止剤の添加が不可欠とされます。植物油では、一番しぼりの油(バージンオイル)は酸化を防ぐ天然のビタミンEを含んでおり、なかなか変質しません。なお、バージンオイルだけを使用するならともかく、一般的には精製工程で使用される化学薬品でビタミンEは失われ、結局、酸化防止剤の添加が必要になってきます。

ドッグフードに使用されている酸化防止剤は、エトキシキン、BHT(ジブチルヒドロキシトルエン)、BHA(ブチルヒドロキシアニソール)などです。これらは家畜用飼料の添加物として認可されています。ただし、いずれも発ガン性等の危険性(毒性)が指摘されており、添加量が規制されています。最近のフードには「酸化防止剤は使用していません」とわざわざ謳ったものもあります。

エトキシキンについては、長い間、論争が繰り広げられました。なにせベトナム戦争で枯葉剤として使用された薬品だそうです。日本では米国の食品医薬品局(FDA)に倣い、75ppmに規制されています。

栄養素の話(炭水化物)

炭水化物は、蛋白質や脂肪より安価なエネルギー源です。炭水化物を食すと、安くエネルギー補給ができ同時に満腹感を得ることができます(嵩を増やすことができるので)。その上、即効性のエネルギー源です。でもパンやご飯を食べないと犬は生きていけないのかといえば、そうではありません。泌乳中の母犬を除けば、犬にとって炭水化物は必須の食べ物ではありません。パンやご飯を食べなくても犬は十分に生きていけるのです。
ドッグフードの中には炭水化物が入っています。蛋白質を有効活用するために炭水化物をエネルギー源として補給していると考えてください。犬が生活するためのエネルギーを炭水化物で補い、蛋白質はもっぱらアミノ酸必要量を満たすために利用されることになります。蛋白質の代替品としての炭水化物です。

フードの中には、主として糖質として炭水化物が添加されています。炭水化物には多糖類(デンプン、セルロースなど)、二糖類(ショ糖、乳糖など)、単糖(グルコース、フルクトースなど)があります。単糖は消化分解する必要がなく、そのまま体内に吸収されます。他の糖類は吸収のための消化分解が必要です。多糖類、ニ糖類は消化分解されて単糖となり、そして体内に吸収されます。

多糖類についての“うんちく”です。デンプンは、比較的消化がよく、可溶性炭水化物ともいわれます。ただ、調理されていないデンプンは消化が悪く、鼓腸(腸内にガスがたまって腹がはること)、下痢の原因になります。一方、セルロースは消化がとても悪く不溶性炭水化物ともいわれます。いわゆる繊維質です。草食動物では消化管内の微生物の働きによってセルロースを分解できますが、犬族では消化できません。ただただ大便となって排泄され、結局、エネルギー源としての価値がありません。といっても、まったく価値がないかというと違う観点からの活用は考えられます。セルロースの消化の悪さを逆手にとって、肥満対策フードに活用するのです。満腹感は得られますので、ダイエットによいようです。ただし、栄養不足にならないように注意する必要はあります。

一般的に「犬に牛乳はよくない」といいます。なぜでしょう。牛乳の中の糖(乳糖)が問題なのです。人間は乳糖の分解酵素(ラクターゼ)を持っています。ラクターゼが生まれつき欠乏したり、胃腸炎で分泌が悪くなったりで、牛乳を飲むと腹痛・下痢を起こす人もいます。乳糖不耐症といいます。犬は正常でもラクターゼの分泌が極めて少ない動物です。哺乳中の子犬のラクターゼ活性はまあ高いのですが、成犬ではその活性は極めて低くなります。個体差はありますが、犬はもともと乳糖不耐症の気質を持っていると理解すべきです。それでも、小腸の内面で乳糖は分解され、なんとか一部は吸収されます。でもあまりに大量に牛乳を飲んだり、腸炎などがあったりすると乳糖は十分に分解できず、小腸に停滞します。その結果、乳糖を利用する腸内の細菌が異常に増殖します。挙句の果てが下痢なのです。なお、乳糖を含まない「犬用牛乳」、「犬用アイスクリーム」などもあります。少々割高です。

栄養素の話(ビタミン 〜その1〜)

ビタミンはエネルギー源として利用されることはありません。
体内のいろんな生理的機能の調整役として働きます。

ビタミンAの最もよく知られている働きは視覚のための機能です。網膜の中でビタミンAはオプシンと呼ばれる蛋白質と結合しています。光があたるとこれが分解され、その情報が脳に伝達されて視覚が生まれるのです。視覚の維持にはビタミンAの供給が必要です。ビタミンB群はいろんな代謝を調整しています。食欲にも関係し、正常な生育に不可欠です。ビタミンDは、カルシウムとリンの吸収・利用の調整役で、骨・歯の形成をコントロールしています。“骨のビタミン”とも呼ばれています。

いずれにしても、ビタミンは体内で合成できませんので、食べ物から得なければなりません。犬に必要なビタミンは14種類とされています。ビタミンB1、B2、B6、B12、パントテン酸、ナイアシン、葉酸、ビオチン、コリン、C、A、D、E、Kです。ところが、米国飼料検査官協会(AAFCO:Association of American Feed Control Officials)の栄養基準にはビタミンCとKの必要量は記載されていません。ビタミンCは犬の体内でブドウ糖から合成されますし、ビタミンKは腸内細菌がほぼ十分量を合成しているとされているからです。健康な犬であれば不要と考えてもいいようです。ビタミンCについては「ビタミン 〜その2〜」で補足説明します。

大部分のドッグフードには最少要求量を超える水準までビタミンが強化されています。製造工程中の活性低下も見越しているそうです。良質のドッグフードであれば、ビタミンをさらに添加する必要はありません。昨今はビタミン欠乏症が見られることもなくなりました。でも、心配なのが過剰症です。実際、動物病院では欠乏症より過剰症を見ることが多いそうです。

栄養素の話(ビタミン 〜その2〜)

ビタミンは、その溶解性により、二つに分類されます。水溶性ビタミン(B群、パントテン酸、ナイアシン、葉酸、ビオチン、コリン、C)と脂溶性ビタミン(A、D、E、K)です。この性状は、吸収、蓄積、排泄に密接に関連しています。つまり、水溶性ビタミン(ただしB12を除く)は体内に蓄積されることはなく、過剰に摂取されると容易に排泄されますが、脂溶性ビタミンが過剰摂取されると体内に蓄積され、中毒や副作用を生じることがあります。脂溶性ビタミンの過剰摂取は要注意なのです。

ビタミンA過剰では、食欲不振、体重減少、知覚過敏などが見られます。ビタミンD過剰では、食欲不振、体重減少、嘔吐、疲労、下痢などが見られます。いろんな臓器に石灰化が見られ、歯や顎が変形することもあります。
ビタミンE及びKの過剰でも、なんらかの弊害があるものと思われますが、よくはわかっていません。

さて、ビタミンCについての補足説明です。健康な犬の体内では必要量のビタミンCが合成されると言われています。つまり、ビタミンCは“不要”が通論です。ところが、多くのブリーダー、あるいは飼主さん達は、骨・関節疾患の発生率及び悪化に、なんらかの効果があると信じています。また、ソリ犬を使った試験で、ビタミンC投与群が、ストレスを感じないでより遠くまで走ったとの報告もあります。きちんとした科学的根拠はありませんが、ビタミンCは、成長期の子犬、病気の犬、重労働犬によいのかもしれません。なお、ビタミンCの供与量は「小型犬は1日に500mg、大型犬は1,000mg程度」と参考書に書いてありました。

栄養素の話(ミネラル)

ミネラルは、1日当りの給与量により、二つに分類されます。g単位の量が必要な主要ミネラル(ナトリウム、カリウム、カルシウム、リン、マグネシウム)とmg(またはμg)単位の量が必要な微量ミネラルです。微量ミネラルは、重要性がよくわかっている微量ミネラル(鉄、亜鉛、銅、ヨウ素、セレンなど)と十分に理解できていない微量ミネラル(コバルト、モリブデンなど)に分けられます。 主要ミネラルは、体液バランスの調整、細胞の一般機能、神経伝達、筋収縮、そして体の構成(骨)などで重要な役割を果たします。微量ミネラルの大部分は金属結合酵素の成分として必要ですし、鉄はヘモグロビン(赤血球)及びミオグロビン(筋肉)、ヨードは甲状腺ホルモンの必須成分です。

ミネラルは、過不足なく、バランスよく与えることが重要です。不足でも問題が生じますし、かといってたくさん与えればよいというものでもありません。必要以上に与えますと、吸収されないミネラルが他のミネラルと結合して吸収を妨げ、欠乏を招いたり、バランスが壊れたりすることにつながります。最近はサプリメント大流行ですが、むやみに特定のミネラルを添加することはアンバランスの主要原因となります。良質のフードを与えている限り、ミネラルの過不足は少ないように思われます。

主要ミネラルで特に重要なのはカルシウムとリンのようです。カルシウムとリンは栄養学的に見ても密接に関連しています。いずれも骨・歯の構成成分です。当然ながら、欠乏、あるいは過剰で、骨・歯に関わる病気を誘発します。肉類の多い食事では、リンが多くカルシウムが少なく、カルシウム不足で骨のミネラル減少を招きます。逆にカルシウムが多すぎると骨軟骨症になったり、骨再生が不十分になったりします。特に大型犬種では深刻な問題となるようです。カルシウム及びリンが過剰な場合、結果としてマグネシウム不足となり、子犬では、元気がなくなったり、筋肉の衰弱が見られたりということもあります。

ミネラルのアンバランスによる骨の異常は、発育期に最も多く起こります。その上、アンバランスがある場合、どのミネラルが過不足なのかを特定することはなかなか困難です。血液検査でもよくわかりません。食事を分析することで、意外と、その回答を得ることがあります。結局、発育に必要なミネラルが、量、バランスとも適正に含まれている食事を与えることに尽きるのです。ミネラル添加剤を使ったアンバランス修正という方法もあります。
しかし、これは、アンバランスを助長したり、新たなアンバランスを引き起こしたりする危険性もあります。やはり通常の食事の管理が重要なのです。