翔ちゃん先生の犬の飼い方コラム

第41話

病気

病気の話 〜栄養素の話〜

各時期に必要な栄養(〜その1〜)

この単元では犬の一生を考えながら、必要な栄養を考えてみようと思います。子犬、成犬、そして老犬です。また、妊娠・出産・泌乳といった一大イベントでの栄養も取り上げることにします。

成長期(その1:授乳期・離乳期)

出生後3週くらいまでを授乳期といいます。授乳期の食事は、母乳、そして代用乳(いわゆるミルク)です。授乳期で重要なことは、①速やかに初乳を飲ませて、母親の免疫力を子犬に移行させること、②十分に栄養を与えること、そして③保温に気を使うことです。そうしなければ、たちまち脱水状態に陥り、体温が下がり、衰弱していきます。子犬は温かい環境におき、毎日体重を測定して、体重増加に異常があれば代用乳で補わなければなりません。また、出産頭数が多い場合、あるいは虚弱な犬がいる場合、平等に母乳が行き渡っているかも監視しなければなりません。母乳を十分に飲むことは子犬にとって必須のことです。

母犬と子犬には、静かで暖かい環境を提供し、そして飼い主が母犬を助けてあげられるチャンスは代用乳を必要な場合に与えることです。代用乳といっても牛乳ではありません。犬用のミルクです。牛乳中のラクトース含有量は犬の母乳よりはるかに多く(約3倍)、牛乳を与えると、下痢を起こしたり、さらに下痢がひどいと脱水状態に陥ったりすることもあります。

本格的な食事となるのは離乳期からです。最近はいろんな犬用離乳食も市販されるようになりました。人間用離乳食と見間違うような製品もあります。この時期は、フードに慣らしていくことが重要です。家庭調理食を考えている方は栄養の偏りがないように注意しながら、いろんな種類の食事に慣れさせる必要もあります。いろんな種類といっても、人間用をそのまま与えるという意味ではありません。この頃の経験は一生涯の味覚を左右しますし、
さまざまな物を混ぜた食事で育てられた犬は、初めて目にするものでも受け入れる行動が強くなるようです。

子犬たちの食欲はとても旺盛です。逆に食べ過ぎに注意しなければなりません。子犬用フードをお湯で少しふやかし、これに犬用ミルクをふりかけたりします。ふやかすときに、お湯が多すぎて流動食になってはいけません。
あくまでも固形フードへのつなぎです。お湯の量は成長とともに徐々に減らしていきます。

成長期(その2:発育期)

離乳期が終わると発育期に入ります。発育期で重要なことは食事の質です。フードを使用される場合は、子犬用として特別に処方してある高品質の製品を選ばなければなりません。AAFCO基準をみますと、成犬用と大きく異なるのは、蛋白質含有量が多い(成犬18%、発育期22%)、脂肪含有量も多い(成犬5%、発育期8%)、カルシウム、リン、ナトリウム、塩化物が多い・・などです。市販フードもそうですが、%だけが記載されています。そこには嗜好性、栄養素利用率、蛋白質の品質などの情報は残念ながらありません。飼い主によるチェックが必要です。

発育期の食事の最終目標は、その犬種の平均成長率に達することです。個体差が大きな犬種では“平均成長率”で悩むこともありますが、いずれにしてもこの時期は食べ過ぎに注意しなければなりません。発育期の肥満は脂肪細胞の大きさと数の両者が増加します。成犬では脂肪細胞の大きさの増大だけです。発育期に過剰の脂肪沈着があると、脂肪細胞の総数が増加し、生涯を通して肥満になりやすい素地を作ることになります。健康上のハイリスクを背負っていくことにもなります。ただし大型犬種の場合はやや様相が異なり、脂肪細胞の総数の増大は肥満の原因にはならないといわれています。しかし、過剰な食事は発育速度を異常に促進し、多くの深刻な骨格の問題を発生しやすいようです。成長速度を最大にするより、最適な骨格の形成が促進されるようにしなければなりません。

3か月齢までの子犬に必要なエネルギー量は、成犬の維持エネルギー量の約2倍といわれています。当然ながら、成長とともにそれは減少していきます(単位重量当りです。総エネルギー量は多くなります)。かといって、自由に食事をさせる(自由採食法)ことはよくありません。定量定時間で、食事をコントロールすることが実は重要なのです。「成犬体重の80~90%に達するまでは、1日に2回、20分だけ、欲するだけ」という方法もありますが、やや少なめの腹八分目がよいのかもしれません。それから、糞便の量と形状、排便回数には注意を払いたいものです。

成長期(その2:発育期・・追記)

成長期に間違った食事を与えるといろんな弊害が出てきます。以下にまとめてみます。

成犬用フードを与えた

単位重量当りのエネルギーが足りません。より多くのエネルギーを得ようと絶えず食べ続けることになります。胃腸は常時満杯状態です。結果として、後年、急性胃拡張、胃捻転を起こしやすくなります。

ミネラルを過剰に与えた

特定のミネラルだけが多くなると、他のミネラルの吸収が悪くなります。結果として、発育不良、皮膚疾患、精巣萎縮、免疫抑制、甲状腺機能低下症、骨疾患がみられることがあります。

必須アミノ酸が少なかった

発育が遅れ、免疫機能も低下し、被毛も劣悪で、筋肉の発達も悪くなります。
発育期にビタミン、ミネラル、蛋白質を添加することがあります。飼い主は良かれと思って与えるのですが、良質の食事を与えている限り、かえって害になることが多いようです。臨床的になんらかの栄養障害が見られる場合は、添加物の追加を考えるよりフード(食事)そのものを高品質なものに変えたほうがよいともいわれています。蛇足ながら、この時期は、適度な運動、適正なワクチン接種、寄生虫のコントロール、さらに心理的発達を促すための社会化、基礎服従訓練も必要です。

各時期に必要な栄養(維持期 〜その1〜)

成犬になったときの期待(理想)体重の約90%に達すると、成長期がほぼ終了して維持期に移行します。その時期は犬種によって異なります。小中型犬種では1年前後、大型犬種では1年半を超えてやっと維持期に移行します。維持期は成長期ほど濃厚な栄養は必要ありません。維持期の食事は、その犬の最適体重と体調を維持させることがポイントです。

犬種図鑑などに標準体重が記載されていますが、個々の最適な体重となるとなかなか目安がありません。定期的に体重を測定して、自分の飼い犬に適した体重を見出す必要があります。一般論としては、①外から見て、肋骨が浮き出ていない、②かといって厚い皮下脂肪に触れることもない、そして③容易に肋骨を触知できる状態であれば、最適な体重を維持していると言えるようです。

食事の量には、個体差、環境(温度、ストレス等)、運動量、年齢、健康状態が関係してきます。例えば、気温が25℃を超えた場合は、1℃上昇するごとに、食事の量は1~1.5%減になりますし、8℃以下の寒さだと1℃低下するごとに約3.5%増となります。運動量によっても食事の量は異なります。中等度以上の運動をする個体では40%増ですし、とても怠惰な生活をおくっている個体では20%減です。

成犬への食事の与え方はいろいろです。自由採食法で、いつでも好きなだけという方法もありますし、時間、あるいは量を定めた与え方もあります。わきまえて食べるようなら自由採食法も可能と言われていますし、手間がかからないところが利点です。しかし、なにぶん犬の摂取量がわかりません。食欲がなくても気づかないこともあります。どうしてもと言われる方には、まず定時に与えることから始め、自由採食法に移行させることが推奨されます。移行当初は食べ過ぎますが、常時用意されていることを覚えればそれもなくなります。ただ、成犬では1日に1~2回の定時定量が一般的なようです。

各時期に必要な栄養(維持期 〜その2〜)

ある書籍に、「50ポンド(23kg)以下の犬では、半生フード、あるいはドライフードに缶詰を混ぜて、それ以上の体重の犬ではドライフードを主としたほうがよい。ドライフードを主とすることは、歯・歯肉の健康状態を保ち、さらに大型犬種では肥満の予防にもなる」とありました。また、別の書籍には、缶詰:ドライフードは容積比で1:1、重量比で3:1とすることが提唱されていました。「缶詰の嗜好性を生かしつつ、ドライフードの経済性を取り入れる」とのことです。

維持期に、成長期、授乳期用のフードを無制限に与えてはいけません。これらのフードは、カロリーが高く、蛋白質・ミネラルも多く入っています。長期間与え続けると、腎臓に負担を与え、ついには腎不全となる場合も少なくありません。きちんと管理された高品質の食事を与えなければなりません。

フードを変更する場合には数日以上をかけるようにしてください。突然変更するととたんにおなかの具合が悪くなる個体もいます。「あのフードはダメだったけれど、このフードはとても合っている」という意見をよく聞きます。あれこれとフードを換える飼い主を“フードジプシー”と揶揄する人もいます。健康状態が悪くないのに便の状態が悪くなると、すぐにフードのせいと考えがちです。しかし、その原因は、一に人間用の食べ物を与えた、二に食べ過ぎ、三に気候の急変のようにも思います。

さて、最後におやつです。飼い主の40%以上はおやつを与えていると言われています。「おやつは絶対に与えない」という強い意志を持っている飼い主の方もおられます。個人的にはおやつを否定するつもりはありません。飼い主と飼い犬の絆を深めるという重要な側面も持っています。要はエネルギー消費量と与える食事のカロリー総量を考慮して与え過ぎないこと、そして品質に留意しておくことだと考えています。

各時期に必要な栄養(老齢期)

老齢期の食事は基本的には維持期と同じです。しかし、なにせご老体ですので、定期的な体重測定、そして体調チェックをやりながら、食事の質と量を考えなければなりません。

老犬の死因の多くは、腫瘍、腎不全、そして心不全です。毎年1回は動物病院で精密検査を受けましょう。生活習慣病には、早期診断と早期介護、そしてより有効な栄養管理が必要です。日々の管理は、ご老体に合った適正体重の維持がポイントです。それには適正な食事と適正な運動が必要です。

最近は老犬用フードも市販されています。記載されている原材料、含有量等をみますと、維持期用フードと少しばかり異なります。成分毎の含有量では、蛋白質・脂肪・灰分がやや少なめで、繊維がやや多めです。代謝エネルギー(ME)もやや少なめに設定されています。一方、ビタミンA、Eなどが強化されているようです。

老犬のQOL(Quality of life)が話題になることが多い昨今です。獣医療の発展のおかげで寿命も延びています。平均寿命は14歳前後まで延びました。ただし、大型犬の平均寿命はそれよりやや短いようです。老齢期は、疾病をできるだけ予防し、不幸にも病気になった場合は症状を軽減してあげたり、その進行を遅らせたりしてあげたいものです。

各時期に必要な栄養(老齢期 〜おまけ〜)

加齢に伴う体の変化はSeason1のVol.40と41で取り上げました。ここでは体の変化と栄養学的対処法を“おまけ”として記載します。

嗜好性と消化率の高い食事を

嗅覚・味覚などの感覚が鈍ってきます。栄養素の利用も不十分になります。

蛋白質、リン及びナトリウムは少なめに

腎機能と心臓血管系が衰えてきます。なお、「蛋白質は少なめに」と記載しましたが、高品質、高消化率の蛋白質を含むことが前提です。老犬では必要量を超える蛋白質を処理する能力が低下しています。

ビタミンA、B群、Eを多めに

消化器系が衰え、代謝系も変化します。特にこれらのビタミンを多めに給与してあげましょう。老犬用フードでは“ビタミンE強化”を謳い文句にしているものもあります。

肥満には高繊維質、低カロリーの食事を

老犬は肥満問題を抱えていることが多いようです。肥満は体への負担が大です。適正な体重を維持させることが長生きの秘訣です。

体重減少には高嗜好性、高カロリーの食事を

食欲及び消化吸収能の低下で体重が減少する個体もいます。歯が悪いときもあります。この場合は高嗜好性・高カロリーの食事を、それも頻回に分けて与える必要が出てきます。缶詰を利用したり、ドライフードを湿らせたり、温めたりする方法もあります。

各時期に必要な栄養(妊娠期)

飼い犬の妊娠期・授乳期を経験される方はそれほど多くはないかもしれません。でも、雌犬にとって妊娠・出産・授乳は一大イベントです。この時期の食事についても触れてみることにします。

まず、繁殖前(妊娠前)の栄養を考えてみます。“健康不良状態”の雌犬が妊娠・出産・授乳となった場合、分娩で一挙に体重が減少したり、乳が出なかったり、授乳中に下痢が続いたりします。子犬にも“影が薄くなる”症候群が見られます(“影が薄くなる”症候群:やたら鳴いてばかりいる、乳を十分に飲めない、体重が増えない、脱水がみられるなど)。また、母犬と子犬両方に貧血が見られます。といっても、妊娠前に過剰に栄養をつける必要はありません。普段から食事の質に気をつかい、適正体重を維持させておくことが基本です。また、交配前には、身体検査を受け、必要であれば、駆虫、ワクチン接種をきちんとやってもらうことも大切です。

妊娠期の最初の2/3(つまり妊娠6週くらいまで)は維持期の食事と同様です。妊娠期の残りの1/3になって維持期の食事を20~30%増しにするか、成長期用(あるいは授乳期用)の食事を与えるようにします。「妊娠したから胎児の分まで栄養をつけてあげなければ」とすぐに考え、過剰な食事を与えがちです。しかし、そうではありません。胎児は妊娠末期に急激に大きくなるので、妊娠後半から授乳期にかけての食事が重要なのです。よく間違いがおこるのは、妊娠前半に過剰の食事を与え、授乳期には食事量が不足することです。

妊娠4週あたりで食事量が少し減ることもありますが、出産までは徐々に増加していきます。妊娠中の雌犬には可溶性炭水化物が必要です。これが少ないと妊娠末期に低血糖を起こし、死産となることがあります。また、母犬の栄養不足は子犬の免疫機能に重大な悪影響を与えます。栄養不足にならないように注意しなければなりません。かといって、飼い主が考える“よさそうな物”を過剰に添加するのも考えものです。例えば、カルシウム、ビタミンDなどの過剰添加は、石灰沈着、子犬の身体奇形の原因となる場合があるといわれています。

各時期に必要な栄養(授乳期)

授乳期は、母犬が体調をくずさず離乳までいたることが大切です。最も重要なことは新鮮な飲水を常時準備しておくことです。そして食事です。

新生子数に左右されますが(犬種、母犬の性格なども要因になります)、授乳中の母犬には維持期の2~4倍のエネルギーが必要とされています。一般的には分娩後第1週が維持期の1.5倍、第2週が2倍、第3週から離乳までが3倍といわれています。当然ながら食事の量も多くなります。子犬1頭当り25%増が目安です。分娩後10日以内に徐々に成長期用(あるいは授乳期用)フードに換え、自由に採食させるという方法も推奨されています。

多数の子犬に授乳中の母犬のエネルギー必要量は並ではありません。残念ながら、これを完全に満たすだけの十分な栄養素を含む市販フードはほとんどないようです(ある書籍の意見)。なんらかのエネルギー補給が必要なようです。エネルギー不足で体調をくずすようであれば、脂肪含有量を20~30%まで増加させます。ドライフード1カップに大さじ1杯(約15mL)の油脂(ラード、牛脂、植物油などなんでもよい)添加でエネルギー量を補填することが可能だそうです。なお、必要以上の油脂の添加は、食物摂取量が減少し、栄養素の欠乏となることがありますので要注意です。