第6話
問題行動
「飼い主さんの態度と犬の行動」を考えてみましょう。犬の行動学・問題行動学は、犬の心理学であると同時に、実は飼い主さんの心理学でもあるようです。
“飼い主さんそっくりの犬”&“犬そっくりの飼い主さん”がときどき話題になります。テレビ、雑誌等で見かけたことがあります。確かに外見(特に顔つき)がそっくりな飼い主さんと犬がいますよね。見ていて本当に愉快なものです。当然、血のつながりはありません。
しかし、「よくもまあこんなに、うふふ・・」と思うほど似たもの同士がいます。面と向かって笑うわけにはいきません。「あら!そっくりですね」と声をかけるわけにもいきません。特に奇抜な顔貌の犬を飼っていらっしゃる方には・・。
また、内面(性格)がそっくりな場合も見かけます。傲慢な飼い主さんに傲慢な犬、神経質な飼い主さんに神経質な犬、類は友を呼ぶのでしょうか。実は共感が持てそうな犬を求める飼い主さんが多いからだそうです。
飼い主さんの性格、態度は、犬にも影響を与えます。そんなあれこれをいくつか紹介します。思いあたる方は少しだけ反省してください、楽しい共同生活を送るために・・。
犬を家族の一員と考えている飼い主さんは、犬に対しても家族の一員たる“社会的責任”を期待していることが多いようです。「来客中は大人しくするのよ!」、「近所の方には優しく接するのよ!」と“社会的責任”を犬に言い聞かせても、そうはいきません。
興奮のあまり、お客さん・近所のおばちゃんに「おうっりゃあ!」と飛びつくことだってあります(若い頃のボビーがそうでした)。
飼い主さんは、その場で相手に平謝りし、あとで“社会的責任”を果たさなかったといっては、ついつい犬に八つ当たりをします。
犬は、なぜ怒られたのかもわからず、次の機会には興奮を発散させる別の問題行動を起こすことだってあります。過度の“社会的責任”を犬に期待してはいけません。
犬を甘やかして育てると、犬は自分の地位は高いのだと勘違いしてしまいます。
そして、飼い主さんが愛撫したり、かまったりすることは、自分の地位に挑戦している行動と受け止め、飼い主さんに向かって攻撃を仕掛けてきます。
そして、ついには生意気で、攻撃性の高い“困ったちゃん”が出来上がることになります。
一般的に犬を甘やかす飼い主さんは小型で活発な犬を飼うことが多いといわれています。確かにそのような組み合わせをよく見かけます。
その犬(全部ではありませんよ)の生意気なこと・・「こんちきしょー」と思うことも度々です。
犬に好かれたいと考えている飼い主さんは、犬の要求を黙って受け入れる傾向が強いようです。犬が求めるからといってはちょくちょくおいしい食べ物を与えたりします。求めれば与えられることを犬が学習しますと、飼い主さんをボスとは認めません。
その上、他の病気を誘発しやすい肥満が待ち受けています。支配性の強い犬は、どちらが優位かに決着をつけるために食べ物や食餌を利用するといいます。食餌を与えてもなかなか食べないことがあります。
なぜでしょう。犬はもっと好きなものを飼い主さんから取り上げ、自分の地位を確固たるものにしようとたくらんでいるのです。犬に対して優位性をきっちりと確立している飼い主さんは、食事を出して10分くらい待ち、食べないようなら、食器を下げてしまいます。
一方、犬に好かれたいと考えている飼い主さんは、「これは嫌いなのかな、別のフードにするかな、喜んで食べるジャーキーをもっと与えてみようかな」などと考えてしまいます。そしてそれを実行します。犬は好きなものをせしめたと思い、飼い主さんを召使程度にしか考えなくなります。
無意識に犬を自分の延長とみなしている飼い主さんがいます。他人がいない所では、犬に赤ちゃん言葉を使って話しかけたり、あるいは大人に話しかけるように喋ったりします。
「あ~ら、○○ちゃん、さみしかったでちゅねえ。いい子いい子しまちょうね」。それを誰かから見られると、とてもきまり悪そうにします。自身の犬への愛着度に戸惑っているのかもしれません。
人と人の関係でもそうですよね。自分が好ましいと思う性格、受け入れやすい性格を友達にも求めてしまいます。そして喜びを共有できると感じています。
しかし、実際は個々で性格が異なるのです。それを認めた上での友情です。飼い主さんと犬との関係もそうありたいものです。
「留守中の破壊行動(分離不安)、自分の尻尾を追いかけてぐるぐる回るような行動(転位行動:欲求不満のときに見られる本来起こることのない行動、あるいは代償的な行動)が認められる犬は、過去に心に痛手を残すような分離不安の経歴を持つか、不安度の高い飼い主さんに飼われている犬である」との報告があります。
神経質といいますか、不安度の高い飼い主さんは、自分の感情をうまく処理できずに、その感情を犬に向けることがあります。犬は気まぐれな懲罰やご褒美が与えられることが多くなります。
こんな飼い主さんだと、犬としても「じゃあ、どうすりゃあいいの?」となります。葛藤状態に陥りやすく、ついには落ち着きのない犬になってしまいます。
神経質な飼い主さんと共通するところもありますが、情緒の安定していない飼い主さんも困ります。犬に対して、「攻撃的だ」、「神経質だ」、「言うことを聞かない」など、行動に問題があるような見方をしがちになります。
どうも、自分が認めたくない性格を犬に当てはめ、それを犬のせいにしたがるようです。飼い主さんが安らぎを求めているときには、犬に声をかけ、撫で、抱きしめなど、とても愛着を持って接します。
ところが、飼い主さんが別のことに夢中になっているときは、犬は邪魔な存在であり、長い間ほったらかしにします。さらに飼い主さんがむしゃくしゃしているときには、犬に当り散らすこともあります。飼い主さんの行動に一貫性がないと、やはり落ち着きのない犬を作ってしまいます。
なぜ人は犬に対して一貫した行動や態度が取れないのかなと思ってしまいます。犬を自分の子供のようにみなし、親のような役割を意識的に演ずる反面、無条件の愛情、無条件の受け入れを犬に期待してしまうのですね。
そして、自分の心の空虚感を犬で埋めようとしてしまうのです。やはり飼い主さんが心理的に安定でなければならないと思うのです。人と接する場合、子供を育てる場合と同じなのかもしれません。