翔ちゃん先生の犬の飼い方コラム

第46話

栄養と食事

食原病(消化器系疾患)

食原病(消化器系疾患)

消化器とは、咽頭、食道、胃、小腸、大腸などです。この部位に障害があると十分な栄養を吸収することができず、栄養不良となります。ここでは食事が一つの原因・誘因となる吐き戻し、下痢、そして大型犬種で要注意とされる急性胃拡張症・胃捻転を紹介します。

その1:吐き戻し

食物の吐き戻しには二種類あります。吐出と嘔吐です。 吐出とは、咽頭・食道に障害がある場合の吐き戻しです。食物は胃に到達していませんので、食べてすぐ、あるいは数秒後に吐き戻します。吐いた物は未消化物です。吐出の主たる原因は、咽頭、食道に異物があったり、炎症があったりした場合です。また、巨大食道というものもあります。 一方、嘔吐は食物がすでに胃に達した後に起こります。食べてから数分、あるいは数時間後に見られます。吐いた物は部分的に消化されています。食事をとった後に嘔吐が見られた場合は消化管に障害があります。例えば、幽門閉塞(胃から十二指腸への出口の閉塞)、腸閉塞、胃炎、あるいは食中毒などです。一方、食事とは無関係に起こる嘔吐は、中毒、感染症、代謝障害(膵臓・甲状腺・副腎などの障害)、そして腎臓・肝臓に疾患があるときです。 吐出・嘔吐は健康な犬でもたまに見られます。しかし、それが頻繁になったり、ひどかったり、長引いたりした場合は異常と思わなければなりません。特に嘔吐では体液が失われ生命を脅かすこともあります。食事と関係があるのか、食事後どれくらいで見られたか、吐いた物はどんな状態だったか(消化の状態、色、粘り、血液の有無)、同時に下痢もあるかなどの情報が獣医師の診断材料としてとても有用です。飼い犬をつぶさに観察して適格な情報を問診で伝えましょう。

その2:下痢

下痢の原因は様々です。食事、中毒、感染症、アレルギー、ストレス、環境の変化などキリがありません。下痢によって水分と電解質が失われます。長引くと体力が落ちてしまいます(特に幼犬は)。ただし、下痢をしたからといってパニックになって過剰反応する必要はありません。まずは原因をつかむことが大切です。次の一手を打つことができます。獣医師に全てを任せがちですが、ここでもどんな状態なのかを的確に伝えることがより正確な診断の一助になります。 持続的・慢性的に下痢が見られる場合は消化器官(膵臓、肝臓など)の疾患に関係していることが多いようです。また、寄生虫の可能性もあります。まず動物病院での検査をお奨めします。 一方、急に、あるいはときどき下痢が見られる場合は“腸に問題あり”がほとんどです。なお、感染症(例えばパルボウイルス感染症)などでも急性の下痢が見られます。“腸に問題あり”の診断は適切なワクチン接種が前提です。 腸には小腸と大腸があります。下痢の原因が小腸にあるのか大腸にあるのかを見極めることは大切なことです。さんにもある程度判断できる見分け方は、粘液(ゼリー状の膜のような物)があるかどうかです。泥状・水様性の下痢、あるいは脂肪便(脂肪が混じった便で腐敗臭がある)は小腸に問題ありです。ねっとりした下痢・軟便は大腸に問題ありです。以上は大まかな見分け方です。もちろん例外もありますし、それほど単純ではありません。その他、フードを変更した、人間の食べ物を与えた、牛乳を多量に与えた、薬を服用させている、嘔吐の有無(どのような嘔吐なのかも含む)なども有用な情報になります。

その3:急性胃拡張症・胃捻転

捻転を伴わない胃拡張もあります。幼犬が食べ過ぎた場合です。問題は急性胃拡張症、そして胃捻転です。中高年齢で、胸が深い大型犬種に多いとされています。この疾患は生死にかかわる一大事です。
腹部が膨れる、吐き気はあるが嘔吐できない、呼吸困難(過呼吸も含む)、口を開けてあえぐ、そして痙攣・死亡へと進みます。時間経過が短く、とても恐いのです。さんが簡単に対処できることではありません。 一刻も早く動物病院に担ぎ込むことが賢明です。でも、間に合わないことがまれではありません。まずは予防です。急性胃拡張症・胃捻転を起こしやすくする主たる要因を以下に記載します。逆のことをやるよう心掛けます。

【主たる要因】
  • 1回に多量の食物を食べる
  • 多量の食物を食べたあと、すぐに運動をする
  • 過剰のカルシウムを摂取する
  • 急いで食べる(他の犬と一緒に食事、食事のときに興奮、食事の回数が少ない)
  • 上記が長期にわたって繰り返される

小さい頃から、そして中高年になってからは特に、これらの要因に注意したいものです。
また、この疾患を経験した犬には、高消化率のフードを与える、1日の食事は3回以上に分ける、食事の前後には興奮や運動を最小限にするなどに努めなければなりません。 恒久対策として、胃を肋骨のところに固定する外科手術があります。