翔ちゃん先生の犬の飼い方コラム

第47話

栄養と食事

食原病(各種疾患)

肝臓疾患

肝臓の機能は、代謝・合成、貯蔵、解毒です。脂肪、炭水化物、蛋白質などの代謝を行い、必要な物質を合成します。エネルギーを貯蔵しますし、ビタミン・ミネラルも貯蔵します。 また、体の中の毒物を解毒する機能を持っています。さらに胆汁酸を産生してそれを分泌することで消化を助けます。このようにいろんな機能を有する重要な臓器が肝臓です。 広辞苑によれば「カンジンなときに奴はいない!」のカンジンは、“肝心”と書いたり“肝腎”と書いたりするそうです。いずれにしても“肝”が入っています。それだけ大切な臓器ということです。

肝臓に疾患がある犬は、活動が鈍く、ぼんやりしていることが多くなります。食欲も減退します。その結果として、体重が減少します。ときどき、嘔吐、下痢も見られます。 ひどくなりますと、黄疸(白目の部分が黄色味を帯びます)、腹水なども見られます。肝性脳症という神経症状を伴った状態に陥ることもあります。大腸(結腸)で産生された神経毒などの影響です。 肝臓がこれを解毒できないのです。意味もなくぐるぐる回ったり、走り回ったり、攻撃性が高くなったりします。そしてついには痙攣・昏睡・死亡に至ります。

肝臓疾患の原因はさまざまです。感染症(犬伝染性肝炎、レプトスピラ症)であったり、炎症(肝炎、肝硬変など)があったり、薬物・毒物であったり、 門脈体循環シャント(先天的、あるいは後天的に、消化管などからの血液を集めて肝臓に送る血管と体循環の血管がつながってしまい、種々の障害がでてくる疾患) であったり、内分泌性疾患だったり、腫瘍だったり、本当にさまざまなのです。その上、なかなか原因が特定できないのが肝臓疾患です。

肝臓疾患は、肝臓の触診(肥大・萎縮がわかります)、血液検査(いろんな肝機能がわかります)を組み合わせて診断していきますが、これは獣医さんの領域です。肝臓疾患には治療と管理があります。 疾患の進行を緩めたり、合併症を管理したりします。栄養学的な対処は“肝機能に負担のかかることを軽減し、肝の再生を促進する”が原則です。以下に列挙します。

  • 動物病院で適切な対処(原因の除去、炎症治療など)をやってもらう
  • ケージ内に収容し安静にする
  • 消化性の優れた食物にする(嗜好性にも気を使って)
  • 食事の量は維持量を目安にする(必要カロリー量は確保する)
  • 1回の食事は少量にし、回数を増やす
  • 食塩、蛋白質をやや制限する
    (生物価の高い、良質な蛋白質を、少量で:チーズなどの乳製品及び卵)
  • 水溶性ビタミンB群を強化する
  • 炭水化物(ご飯、パスタなど)でエネルギーを補給する
  • 下痢・脂肪便が見られるときは脂肪も制限する
  • 脳障害があるときは蛋白質をさらに厳しく制限する
  • 腹水・浮腫があるときは食塩をさらに厳しく制限する

腎臓疾患

肝体の中の老廃物を“濾過”し、必要なものは“再吸収”し、不要なものは尿として“排泄”するのが腎臓の役割です。 ということは、腎機能がおかしくなると、必要なものが出て行くし、不要なものが体の中に溜まることになります。不要なものは体に害になるものがほとんどです。これがいろんな悪さをすることになります。

腎臓の機能がおかしくなることを腎不全といいます。感染症、薬物中毒などで、腎機能が急に低下する急性腎不全と、腎機能がだんだんと弱ってくる慢性腎不全に分かれます。 ここでは比較的多い慢性腎不全を中心として話を進めます。

慢性腎不全は通常老齢犬に見られます。水を飲む量が増える、おしっこの量も増える、おしっこの回数が増える、ときどき嘔吐があるなどの症状です。 徐々に進んだ場合はなかなかわかりません。ただ、夜間におしっこをする回数が増えたことで気づかれることが多いようです。食欲不振、体重減少、口の中の潰瘍、下痢なども見られます。 腎機能の異常は、主として尿検査と血液検査で診断され、輸液・投薬・透析が必要な場合もあります。獣医さんの領域です。

少し専門的な話をします。最後の「腎不全になった場合の栄養学的対処法」まで飛ばして読まれても結構です。

腎損傷の原因がどこにあるかで腎不全を三つに分類します。腎臓には全身から老廃物が集まってきます。いわば終末に位置する臓器です。 終末臓器(腎臓)にいたる前に原因があるのが腎前性腎不全、腎臓のあとの排泄器官(尿管、膀胱、尿道)に問題があるのが腎後性腎不全です。そして腎臓そのものに原因がある場合を腎性腎不全といいます。

栄養学的偏り、例えば長期間にわたる高蛋白質食、高リン食で腎臓が硬くなったとき(腎石灰症)、高塩分食で高血圧となり血管が損傷したときは、腎前性腎不全です。脱水・出血、心機能の低下、 血栓症・腫瘍などで腎血流が減少したときなども、原因が腎臓にいたる前の出来事ですので、腎前性腎不全です。腎臓以降の尿路が結石・腫瘍などで閉塞したときは腎後性腎不全です。 腎臓そのものがおかしくなる腎性腎不全は、感染症(レプトスピラ症、細菌感染)、毒物、先天性異常、腫瘍、免疫学的異常などで見られます。

原因がなんであれ、一旦腎臓が損傷を受けると、腎機能の悪化は確実に進行します。まずは予防です。栄養学的には高蛋白質食、高リン食、高塩分食を避けることが肝要です。つまり、腎疾患予防には食事管理が重要な役割を果たすのです。


不幸にも腎不全となった場合の栄養学的対処法を以下に列挙します。

  • 新鮮な水をいつでも飲めるようにしておく
  • 適正体重を維持できるカロリーを与える
  • 食事は少量ずつ数回に分けて与える
  • ビタミンD、B、Cの補給は有効、ビタミンAの補給は有害
  • 蛋白質の制限(生物価の高い良質の蛋白質を少量で)
  • ナトリウム(塩分)、リンの制限
  • 嘔吐が止まらない場合は1~2日の絶食

尿路疾患

腎機能が正常でも、腎臓以降の尿路(尿管、膀胱、そして尿道)に閉塞があると、老廃物が体内に蓄積し、悪影響が出てきます。尿管とは腎臓から膀胱に尿を送る管です。膀胱から尿道を通って尿は体外に排泄されます。

尿路を閉塞する原因の多くは尿石症です。尿路に結石ができる疾患です。結石ができる場所により、腎結石、尿管結石、膀胱結石、尿道結石と呼ばれます。 結石は、ミネラル老廃物が十分に溶解せずに結晶・沈殿となり、さらにそれが成長して大きくなったものです。結石形成には、感染、食事、腸の吸収、おしっこの量、おしっこの回数、遺伝などが影響します。

結石がおしっこの通り道(特に尿道)を塞ぐと、痛みを伴う排尿困難と血尿が見られます。さらに完全に閉塞すると腎不全の症状がでてきます。尿石症は触診、X線検査などで確定診断します。 治療法は内科的治療(結石の溶解)と外科的治療(結石の摘出)です。結石形成のすべての要因をコントロールしていくことは不可能です。不幸にも結石ができた場合、まずは尿路感染の治療と結石の除去(あるいは溶解)から始まります。 そして栄養学的面からの再発予防です。結石を形成する物質を過剰に摂取させないようにすることと尿のpHコントロールが再発予防に重要です。なお、“療法食”として、結石溶解用フード、再発予防用フードも市販されています。

犬に最も一般的な尿結石はストルバイト(MgNH4PO4・6H2O)からなっています。ほとんどの場合が細菌(ブドウ球菌、プロテウス菌など)の尿路感染が原因です。細菌感染により尿のpHが上昇します。 実はストルバイト結石形成にはアルカリ性の環境が必要です。ストルバイトはマグネシウムとアンモニアとリンが主成分です。再発防止にはこの成分を抑えなければなりません。低蛋白・低カルシウム・低マグネシウム・低リンの食事を与えなければなりません。 同時に尿のpHを酸性に保つようにしなければなりません。なお、ストルバイト結石再発予防に適したフードが市販されています。

結石の組成によって、尿酸アンモニウム結石、シスチン結石、シュウ酸カルシウム結石などもあります。これらの結石の再発予防には、ストルバイト結石とは逆に、尿のpHをアルカリ性にする必要があります。 低蛋白・低カルシウム・低シュウ酸塩のアルカリ化食を与えます。これも市販されています。

心臓疾患

特に重要なのは心不全です。心臓の機能がおかしくなり、心臓から体中に送られる血液量が少なくなります。血の巡りが悪くなるのです(頭が悪くなるの意ではありません)。 当然ながらさまざまな障害が出てきます。なお、心臓疾患=心不全ではありません。心臓疾患を持つ犬の10~15%が心不全の症状を示します。つまり、心臓疾患が徐々に進行し、ついに症状が出てくると理解した方がよいようです。

心機能が低下すると、末端への酸素供給量が減ってきます。結果として運動に耐えられなくなってきます。これが飼い主でもわかる共通症状です。「最近、運動を嫌がるな、年か?」というのが、実はということもあります。 なお、都合よく怠惰になる曲者もいるようです。真の心臓疾患となかなか判別できないかもしれません。その他、運動や興奮で咳・呼吸困難があったり、腹水のため腹部が膨らんだり、おしっこの量が増えたり、飲水量が増えたりします。 先天性心臓疾患も原因の一つですが、肥満・腎疾患などによる高血圧もその原因となります。

食事管理は心臓疾患に有効です。体の栄養必要量を満たしつつ、心臓への負担を軽減することが目的です。心不全の臨床症状が出る前に体内ではナトリウムの貯留が始まります。まずは食事中のナトリウム制限を行うことが重要です。 ナトリウムを制限したフードも市販されています。減塩食です。人では食塩が嗜好性を増すことが多いようですが、犬ではそうでもありません。減塩食への変更は容易です。 ただし、急に変更すると、なかなか受けつけてくれないこともあります。食事の変更には時間をかけましょう。また、肥満なら減量をやらなければなりません。ただし、過度の減量作戦はいけません。 適正な量のカロリーを供給し、さらに良質の蛋白質を給与しながらです。なお、腎疾患も併発している場合(心疾患と腎疾患の併発は多いのです)、蛋白質の与え過ぎもよくありません。

犬の日常環境の改善も心不全の予防策です。例えば、高温環境を避ける、激しい運動はさせない、仕事を強制しないなどです。いずれも安静時の心拍数を維持させることが基本となっています。重症の場合は“ただただケージで安静に”となってしまいます。

内分泌疾患

検査技術が発達し、犬族でもいろんな内分泌疾患がわかってきました。糖尿病だけではありません。例えば甲状腺機能低下症(実は犬で最も多く見られる内分泌疾患だそうです)、 副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)、副腎皮質機能低下症(アジソン病)などです。全てを紹介すると医学書のようになってしまいます。ここでは食事管理が特に重要とされる糖尿病を取り上げることにします。

糖尿病は膵臓から分泌されているインスリンが欠乏することによる病気です。炭水化物の代謝が慢性的に障害を受けます。動物種では犬と猫に比較的多くみられるようです。また、犬の場合、雌の方が雄より2倍近く多く発症します。 雌の黄体ホルモンの一種・プロジェステロンが、成長ホルモン分泌を促進し、その結果として高血糖、インスリン抵抗性(インスリンへの反応が低下)となるからだそうです。“発情性糖尿病”と呼ばれることもあります。 妊娠・出産を経ると発症率はさらに高くなります。大型犬より小型犬に多いといわれていますが、どの犬種でも発症の可能性があります。

糖尿病の原因は、インスリン産生量の低下(膵臓の障害)、インスリン感受性の低下(インスリンへの反応が鈍くなる)、インスリン輸送の障害(抗体ができてインスリンが働く場所にたどり着けない)などです。 ある書籍に「犬の場合、最も多いのが慢性膵炎と免疫が絡む膵臓の破壊である」と書いてありました。インスリン産生そのものが低下します。別の書籍では「クッシング症候群での糖尿病、発情性糖尿病が多くなっている」 とも書いてありました。ホルモンが絡む糖尿病です。ストレス、肥満も引き金になります。

糖尿病の症状は、おしっこが多い(多尿)、水をよく飲む(多飲)です。尋常とは思えない量です。元気もなくなります。食欲は増しますが、体重は減少していきます。また、白内障になることもあります。 糖尿病の発症はしばしば突然起こります。そして、その後の経過はとても長くなります。それから、細菌・カビなどの感染に対する抵抗力が落ちます。膀胱炎、皮膚炎などが長引いたり、再発を繰り返したりします。

食事療法で大切なのは複合炭水化物食です。デンプンと食物繊維がよく使われます。なんとなく炭水化物は避けるべきかと考えてしまいますが、現在の推奨食事療法はそうではないようです。複合炭水化物は吸収に長時間を要します。 血糖値を急激に上げることはありません。一方、単糖だと吸収が早すぎます。糖尿病に単一の糖を含むフード(半生タイプ)は避けたほうがいいといわれる所以です。 それから血糖値をコントロールするために、1日当りの食事の総量は同じでも、何回かに分けて与えることが奨められます。当然ながらインスリンの投与は欠かせません。適度な運動も奨められます。

肥満はインスリン感受性を低下させます。肥満犬は体重も減少させなければなりません。ただし、すでに病気が進行している犬では体重が大幅に低下しています。まずはカロリーを高くして状態を安定させ、食事制限はそれからです。

骨疾患

栄養の不均衡が関係する骨疾患の多くは成長期に発生します。ある調査によれば、成長期・発育期に何らかの筋骨格疾患が発生するのは、96%以上が30kg以上になる大型犬種だそうです。 そのうち66%は体重増加速度が著しく速く、カルシウム過剰(または不足)が原因です。「大型犬種の子犬の栄養学」を別で取り上げますので、ここではポイントだけを箇条書きすることにします。

  • 栄養の不均衡が原因かどうかをよく調べる(他の疾患も多い)
  • ある栄養素の不足でも過剰でも、まず適正な食事を与えるようにする。ただし、発育速度が急速過ぎない量を与える
  • 発育期に自由採食はさせない
  • バランスのよい食事を与えても、なお骨疾患が見られた場合、食事量を25%減少させる
  • バランスのよい食事を与える限り、カルシウム、リン、ビタミンD、ビタミンAをさらに添加したりしない

皮膚病

栄養障害による皮膚病は、栄養供給量の不足、消化管からの吸収障害、ある栄養素の移送や代謝の不完全さで生じると考えられています。バランスの取れた食事を与えている限り、特定の栄養素が欠乏することはごくまれなことです。ある研究者は「特定の栄養素欠乏が指摘された場合は、食事を考えるより、遺伝的疾患を疑うべきである」とも言っています。とはいっても、多くの栄養素は複雑な相互関係にあります。一つの栄養素のわずかな量的変化が他の栄養素に影響を及ぼすこともあります。例えば亜鉛です。カルシウム、鉄を多く与えると、亜鉛の吸収が悪くなり、相対的に亜鉛欠乏となります。

犬の皮膚病の原因は本当にさまざまです。外部寄生虫であったり、感染症であったり、代謝異常であったり、内分泌疾患であったり、環境や管理の失宜であったり、昨今はアトピーまであります。その中で栄養が関係する皮膚病は“栄養反応性皮膚疾患”と言われています。特定の栄養素の欠乏だけではありません。食物アレルギーもその範疇です。ところで、臨床的に栄養素を加えることで改善できるのは、必須脂肪酸、ビタミンA、亜鉛に関連した皮膚症例だけだそうです。その三つを簡単に紹介することにします。

①必須脂肪酸

必須脂肪酸の皮膚における役割は、水分と結合して皮膚にしなやかさと弾力性を与えること、皮膚にバリヤー機能を与えることです。必須脂肪酸欠乏による皮膚病では、初期には細かいフケを伴った光沢のない毛になり、長期にわたると脱毛、そして細菌感染による化膿がみられるようになります。ドライタイプのフードが、暑い所、湿度の高い所に長期間保存された場合は十分量の必須脂肪酸を含有していないこともあります。要注意です。必要カロリーの2%をリノール酸で与えると改善していきます。

②ビタミンA

ビタミンAは表皮細胞の増殖と分化に関係しています。これが不足すると、角化亢進(皮膚が固くなる)、脱毛がみられるようになります。脂肪が制限された食事を与えられた場合、あるいは脂肪吸収が悪い犬が成長して妊娠・泌乳の時期になったときにビタミンA欠乏に陥りやすいと言われています。フード乾燥重量1kg当り約5,000IUを1回だけ添加する方法が使われます。なお、過剰投与にならないように注意が必要です。

③亜鉛

脂肪、蛋白質、核酸の合成と代謝を調整するのが、亜鉛の役割です。実験的ですが、完全欠乏させると、皮膚症状とともに全身症状(成長が遅れる、痩せる、眼の炎症など)がみられます。通常は皮膚症状が主です。毛に光沢がなくなり、口の周囲、目の周囲、耳などが、赤くなり、かさぶたができたりします。亜鉛が関連する皮膚病はシンドローム1と2に区別されています。シンドローム2はどの犬種でもみられ、成長の早い犬が不完全な食事を与えられた場合です。問題はシンドローム1です。シンドローム1ではもともと小腸での亜鉛の吸収が悪いことが原因になります。シンドローム2では一時的な亜鉛の補給でなんとかなりますが、シンドローム1では生涯にわたって亜鉛補給が必要になります。シンドローム1の皮膚炎は、成犬になったり、ストレスがかかったりしたときに多く見られます。