第45話
栄養と食事
まず犬の自然な採食行動について学んでみましょう。市販フードを無制限に(自由に)与えると、犬は1日中少しずつ食べています。朝、昼、晩と、決まった時間に食べるわけではありません。そして一定量(つまり自分の体重を維持するために必要な量)を食べると採食を止めます。食べる量を自分で調節しているのです。適正体重を自ら維持する能力です。この自己調節能力は犬種・個体によって差があります。残念ながら自己調節能力がそれほど高くない犬種もいます。そんな犬種に「自由にどうぞ」なんてやると際限がありません。自由採食は不向きな犬種もいます。面白いことに、嗜好性の高い食物にすると、自分の適正体重を高く設定するそうです。好きな物をたくさん食べようと身勝手な自己調節をするのです。「こんなにおいしい食べ物なら、少々太ってもいいか、適正体重を多めに設定しておこう」。犬達の知恵も捨てたものではありません。でも、肥満への道へと突き進むことになります。
次は異常な採食行動(糞食、植物食、異食症)です。
まず糞食です。出産後に母犬が子犬の糞を食べるのは、巣(産室)を衛生的に保つための行動で正常なことです。犬が、他の動物、特に草食動物の排泄物に強く誘惑されるのは正常なこととされています。一方、成犬になっても自分自身あるいは他の成犬の糞を食べるのは異常なことと考えられています。犬にとって糞食は利益があるのでしょうか・・今もって明確ではありません。糞食を止めさせるには、嫌いな臭いで条件づける、消化性の高い肉を与えるなどがありますが、排泄された糞をすぐに片付ける、他犬の糞には近づかないようにするのが手っ取り早い方法のようです。
次は植物食です。犬はときどき道端の草を食べます。これも理由が明確ではありません。草を食べた後に嘔吐することが多いようです。汚染物質を吐き戻す効用があるのかもしれません。あるいは胸焼け予防かもしれません。植物の成分には栄養学的・薬物的価値があるようにも思えます。なんらかの快感を与えているようですし、異常なほどでなければ心配は要りません。この時期は除草剤が散布されていることが多いようです。注意しないと体調不良に陥ります。
最後に異食症です。通常の食物ではない不消化性物質を食べる症癖が異食症です。子犬が不消化性物質(石、木片、おもちゃなど)を食べることがあります。これは好奇心からの環境探索行動の結果です。行動自体は正常の範囲ですが、物が物だけに食べてしまえば危険です。成犬が石を食べることがあります。これは好きで食べているというより、石で遊んでいるときに偶発的な事故として発生することが多いようです。いずれにしても、ボール、棒などに興味を持たせ、それらが遊び道具であることを認識させると解消していきます。
嗜好性、感触、温度、目新しさ及び親しみやすさによっても、食欲は促進されたり抑制されたりします。しかし、食欲の増減は疾病の経過の指標となることが多く、飼い主が注意を払わなければならないことです。と言っても、食欲のある・なしで大げさに一喜一憂してはなりません。その原因をよく観察して的確に対処しなければなりません。食欲不振の原因は三つに大別されます。一時的なもの、病的なもの、それから薬物がからむものです。
飼い主がいないところ、家とは違う場所などで、食欲が落ちることがあります。これはまったく一時的なことで、健康を害することはありません。その後必ず食欲は戻ってきます。
食欲をコントロールするのは、脳の視床下部にある空腹中枢と満腹中枢です。空腹中枢が刺激されると食欲が増進しますし、満腹中枢が刺激されると食欲が抑制されます。生体は正常では空腹の状態にあり、食べることによってこれが緩和されると言えます。視床下部に病的な障害があると食欲に異常が見られます。味覚・嗅覚は食欲に多大な影響を与える感覚ですが、加齢、頭部損傷、やけど、ガン、慢性腎不全などで影響を受け、食欲が低下することがあります。それから、ある種の薬物も味覚・嗅覚に影響を与え、食欲不振を招くことがあります。難しく書いてしまいましたが、要は人間が食欲不振に陥る原因を考えていくと、犬の食欲不振も容易に理解できます。また、これは家庭でなんとか対処できる、これは動物病院に連れて行ったほうがよい、という判断もできます。
栄養不良で食欲不振の犬には、特に禁忌事項がない限り、速やかに栄養補給を行う必要があります。なんらかの病気が内在している可能性が高いと思われます。かと言って、全ての病気に栄養補給が必要かと言うとそうではありません。目安は以下のようなときです。
なお、これらはやや重症です。まずは動物病院で診察を受けることをお奨めします。特に重症で入院の必要がある場合はともかく、軽い食欲不振は家庭で対処したいものです。飼い主ができそうな食欲増進法もあります。
なお、水の補給も忘れずに。