翔ちゃん先生の犬の飼い方コラム

第35話

病気

病気の話 〜咳・呼吸〜

咳は急激に空気を吐き出す動作です。気道から異物を排出・除去する働きをします。
咽頭部・呼吸器系の防御システムの一つですし、早期警報役も担っています。早期警報を見逃すと重症へと進むこともあります。咳を甘く見てはいけません。咳は呼吸器系の異常で起こることが多いのですが、循環器系異常の場合もあります。犬種・年齢を問わず見られ、重症化すると命取りになる赤ん坊犬と年寄り犬では要注意の警報と言えます。

咳の原因を上部気道(鼻咽頭・喉頭・気管)、下部気道(気管支・肺)に分けて記載します。

上部消化器系の障害、副腎機能亢進、ステロイド剤の長期投与、劣悪な飼育環境などもリスク因子になります。

【上部気道】
  • 鼻咽頭:鼻炎、副鼻腔炎、扁桃腺炎、異物、腫瘍
  • 喉頭:炎症、異物、外傷、腫瘍
  • 気管:炎症、感染症、異物、腫瘍
【下部気道】
  • 気管支:炎症、感染症、アレルギー、異物、腫瘍
  • 肺:炎症、感染症、嚥下性肺炎、肺水腫、腫瘍
  • 肺/血管:フィラリア症、うっ血性心障害、腫瘍

咳が出るパターン、咳の性質で原因を推定できることもあります。
「せきが続いている期間」「1日のうち、咳が出るのはいつか」「何かをきっかけにせきが出るか(運動、興奮など)」「咳をすると、痰も出るか」「痰の色は」などの情報を先生に伝えましょう。

・夜間に咳:うっ血性心障害(フィラリア症など)、気管虚脱(気管がつぶれた状態)、肺水腫の疑い
・運動したり興奮したりすると咳:喉頭・気管・気管支に炎症の疑い
・重度で長く続く咳:気道に何らかの併発症がある可能性
・軽度でときどき見られる咳:肺胞に何らかの異変、うっ血性心障害の疑い
・湿った咳:感染症、気管支炎、肺炎など重症で進行性(悪化)の可能性
・乾いた咳:フィラリア症、心疾患など循環器系に障害がある可能性
・出血を伴う咳:気管支炎、腫瘍の可能性

うっ血性心障害、重度の肺機能障害(肺炎など)があれば入院が必要になりますが、一般的には通院になります。しばらくは運動を制限します。治療は抗生物質と気管拡張薬が使用されます。特に原因不明あるいは感染症・重度の心疾患の場合はステロイド剤・咳止めなどはあまり使用されません。

【ワラビーグループの診たて】

咳の原因は様々です。ついつい咳があると「風邪かな」と様子をみてしまいがちですが、上記の通り重い病気もありえますので、早めに来院、検査をしましょう。

呼吸困難

この単元のテーマを“呼吸困難”としましたが、荒い呼吸、過呼吸、あえぎなども含みます。
息をするのが苦しそうな状態と考えてください。緊急を要することもまれではありません。

呼吸困難の原因は「呼吸器系に問題あり」と考えるのが一般的です。しかし、それ以外の原因もあります。酸素の需要と供給のバランスを崩すあらゆる疾患が呼吸困難を起こす可能性があるのです。

呼吸器系とそれ以外に分けて代表的な原因を記載します。
呼吸器系は気道に沿って「鼻、喉頭、気管、気管支、肺」の順に、その他の原因は「循環器系、神経系、代謝系、血液、内分泌系、その他」の順です。

・呼吸器系:鼻腔の異物・腫瘍、喉頭麻痺・扁桃肥大、気管の機能障害・異物・腫瘍、気管支炎、肺水腫・肺炎
・それ以外:心不全、中枢神経の外傷・腫瘍・炎症、酸-アルカリバランスの異常、貧血、副腎皮質ホルモン過多(クッシング症候群)、アレルギー、痛み・恐怖・熱

症状の特徴から原因を類推することができます。例を示します。

・呼吸が速いだけ:痛み・恐怖・熱からの呼吸困難
・心雑音などを伴う(聴診しないとわかりませんが):心疾患に伴う呼吸困難
・息を吸うときに起こりがち(喘鳴も伴って):上部気道に問題あり
・息を吐くときに起こりがち:下部気道に問題あり
・息を吸うときにも吐くときにも起こる:異物・腫瘍の可能性
・声が変わる:喉頭麻痺の可能性

呼吸困難に飼い主さんが対処できることはあまりありません。
重度の場合は気道挿管、酸素吸入などの緊急措置、異物・腫瘍は外科的措置、炎症等には抗炎症剤・抗生物質による治療が行われます。
いずれにしても動物病院では対症療法を施しながら呼吸困難の原因を特定し、的確な根治治療へと進められます。

【ワラビーグループの診たて】

呼吸困難は様々な原因で起こりますが、命に関わる状況である事が多いです。早急に来院して頂くか、すぐ病院にご連絡して頂く事をお勧めします。