翔ちゃん先生の犬の飼い方コラム

第33話

病気

病気の話 〜便〜

便失禁

便失禁(べんしっきん)とは「無意識にうんちが排泄される」ことです。つまりおもらしです。便失禁はどんな年齢でも起こりますが、老齢犬になるとその発生率が高まります。

原因は「排便を我慢できない何らかの疾病」「肛門括約筋の異常(神経系が関与する場合とそうでない場合あり)」に大別されます。

1.排便を我慢できない何らかの疾病
大腸や直腸に疾病(大腸炎、腫瘍など)がある場合、何らかの原因で下痢がひどい場合は排便を我慢できないことがあります。

2.神経系が関与しない肛門括約筋の異常
外傷によって肛門括約筋が損傷を受けている場合がほとんどです。

3.神経系が関与する肛門括約筋の異常
外傷・腫瘍等により中枢神経・陰部神経・腰部脊髄に損傷がある場合、末梢の神経筋肉障害がある場合などが原因です。

老化による退行性変化(筋肉の衰えなど)が原因の場合もあります。
興奮したり、吠えたり、咳をしたりしたときには腹部が圧迫されて見られることが多く、尿失禁が同時に見られることもあります。

原因が明確であれば動物病院ではそれらの治療が行われます。また抗炎症剤などが処方されます。残念ながら神経系障害による便失禁の治癒はなかなか困難です。

飼い主さんができることは糞便量を減らす試みです。例えば食事制限したり、低残渣食(米とコテージチーズなど)を与えたりします。

直腸部に便がたまらないように、暖かい水で定期的に浣腸して排便を促すことも行われます(飼い主さんによる排便のコントロールです)。室内が汚れることを嫌って室内飼育から室外飼育に切り替える飼い主さんもいますが、これは自己満足ですし、環境激変は病気の犬にとって大きなストレスになります。敷物、オシッコシーツなどで対処したいものです。

【ワラビーグループの診たて】

まずは便失禁の原因を探るために、食事や環境、生活パターンを伺うとともに、各種検査をおすすめします。

排便困難・血便

大腸・直腸や肛門部に炎症があったり、過敏症だったりすると、排便が困難になったり、便に血が混じったりすることがあります。毛・骨・異物の摂食、汚い居住環境、散歩不足などがリスク因子になります。

便意はあってもなかなか排便できず、痛みのため泣くことが多くなります。
痛みが強すぎるとついには便秘になります。大腸疾患がある場合は粘液と血が混じった下痢を伴います。

大腸内部を見ることは出来ませんが、肛門部は観察できます。
狭窄、肥厚、肛門嚢の腫大・痛みなどが見られることがあります。直腸/肛門と大腸に分けて原因を記載します。

●直腸/肛門:狭窄、痙攣、肛門嚢炎、異物、直腸脱、外傷、腫瘍
●大腸:腫瘍、炎症、アレルギー

治療には、排便を容易にする緩下剤、炎症・感染症を抑える抗生物質・抗炎症剤が使用されます。ただし、薬剤の長期使用はあまりよくありません。原因除去と水分補給に努めるべきです。なお、病状によっては外科的手術が必要になることもあります。

【ワラビーグループの診たて】

排便困難や血便の原因を探るために、身体検査や直腸検査、レントゲン検査などが行われます。また最近では大腸内部を観察するために内視鏡を利用することもできます。 原因にもよりますが、上記の治療法に加え、特別療法食に変更することで改善する可能性もあります。

便秘

便秘は、便の通り道(大腸部)に何らかの障害があるとき、腸内での便の移動がゆっくり過ぎるとき、腸のぜん動が弱いときなどに起こります。便の量が極端に減ってきたり、硬くて乾いた便になったり、排便回数が減ったり、ときどき嘔吐が見られたり、元気食欲がなくなったりすることが前兆です。嘔吐がある場合は脱水症状を伴い、便秘が重症化するとともに長く続くことがあります。

便秘の原因を列記します。

・食べ物:骨・毛・異物・繊維分過多
・環境:運動不足、環境の急変、運動が制限された状態
・薬物:抗コリン作動薬、抗ヒスタミン薬、利尿剤、鉄剤など
・疼痛:肛門周囲の炎症・外傷などによる痛み
・物理的原因:大腸部の腫瘍・ポリープ、大腸周辺組織(前立腺など)の腫瘍
・神経・筋肉系:中枢神経障害、仙骨神経の障害・外傷、大腸周辺筋肉の機能不全
・代謝・内分泌系:上皮小体機能亢進症、甲状腺機能低下症、虚弱体質、脱水症、腫瘍

軽度の場合は十分に水分を与え、食事調整で治ることが多いようです。やや頑固な場合は動物病院へ連れて行きます。

病院では原因が特定できれば原因の除去、あるいは改善が試みられます。

便秘と脱水症状が見られるようなら補液で水分を補給します。麻酔下で貯留する便を取り除く場合もあります。

薬物としては緩下剤(=下剤)が用いられますが、種類は様々です。容積を増やす下剤、潤滑をよくする下剤、便を柔らかくする下剤、刺激を与える下剤などです。温水浣腸も有効です。なお、持続的・長期に下剤を使用することはよくありません。

動物病院で治療を受けても、治療後1~2週間は便の回数・量・状態などをつぶさに観察しなければなりません。再発防止には適量の高繊維食を食べさせ、水分を十分に与え、散歩で排便の機会を増やすことです。

【ワラビーグループの診たて】

ネコちゃんでは、最近便秘に優れた効果をしめす療法食が発売されました。
ワンちゃんの場合も、背景に病気が原因として隠されている事もありますので、ご心配の際は早めにご来院下さい。