翔ちゃん先生の犬の飼い方コラム

第28話

病気

病気の話 〜目〜

目の病気 〜流涙〜

はじめに

目の病気を紹介します。その前に一言…目の病気は自覚症状が少ないのが特徴です。気づいたときには手遅れということもまれではありません。
わずかな変化を見逃さないようにしなければなりませんし、目の定期検診が推奨されます。

目の症状は三つに分けることができます。

・外観の変化
・視力の異常
・感覚の変化

1で一番多いのは流涙と充血です。眼球突出、瞳孔不同(左右の瞳孔が不揃い)などもあります。
2の代表例は失明です。
3は痛みを伴うような症状です。角膜の外傷などが原因になります。
痛みがあるので前肢で頻繁に目をこすり、さらに病状が悪化することが多いようです。

流涙

涙がオーバーフローする症状を流涙(りゅうるい)といいます。主たる原因は三つ、「なんらかの刺激による涙の過剰生産」「まぶたの異常」「涙の通り道の障害」です。

・なんらかの刺激による涙の過剰生産
二重睫毛、眼瞼内反、角膜・結膜の異物、眼瞼炎、結膜炎などが原因です。二重睫毛や眼瞼内反がよく見られる犬種が報告されています。

・まぶたの異常
外反、外傷、顔面神経麻痺などが原因です。外反発生が多い犬種がいます。

・涙の通り道の障害
遺伝の場合もありますが、鼻炎、副鼻腔炎、外傷、異物、腫瘍などが原因で涙の通り道がふさがれることがあります。

まず外傷はないか、異物はないかなどを観察します。もし異物が見つかればそれを取り除きます。いずれにしても原因を特定する必要があります。ほとんどの場合、広域スペクトルの抗生物質(いろんな細菌に効力がある抗生物質)入りの目薬で軽快します。

【ワラビーグループの診たて】

若い小型犬と短頭種で多いのが、まぶたが内側に丸まったままになる、眼瞼内反です。残念ながら体の構造的な問題なので、完治させることは困難なのですが、加齢や治療で改善するケースもあります。お困りの場合はご相談ください。

眼球突出・陥没、斜視

外観の変化の二回目です。今日は眼窩の病気についての話です。
眼窩とは眼球が入っている骨でできた空間で、眼球を保護する役目があります。眼窩の病気には、骨折、感染症、炎症、腫瘍などがあります。その結果として見られる眼球突出・陥没、斜視をここでは取り上げます。 いずれも飼い主さんが気づくことです。

比較的若い個体では、眼窩の膿瘍、蜂巣炎(広範囲にわたる化膿性炎症)、筋炎が多く、眼窩の腫瘍は中年~老犬で見られます。

眼球突出は、外傷に伴う出血、腫瘍、膿瘍、蜂巣炎、筋炎などで起こり、発熱、痛み、分泌物排出、まぶたの腫れなどを伴います。 急性の眼球突出は眼窩の炎症によることが多いようです。 眼球陥没は、骨折、目の痛み、眼炎、脱水症などが原因で、眼瞼が下がる、外眼筋の萎縮、眼瞼内反などの症状を伴います。斜視は眼の位置を調節する筋肉の引っぱる力の不均衡により起こりますが、その原因は外傷、炎症、眼球突出などです。片側の眼の視力が劣る場合も斜視となります。

眼球突出・陥没ではできるだけ早く整復することが必要です。外傷等の範囲、突出・陥没していた期間、炎症の併発の程度などにより、病後の経過は様々です。治療薬は、基本的に抗生物質入り点眼薬と抗生物質+コルチコステロイドの全身投与です。

眼窩の膿瘍・蜂巣炎では、食欲が出るまで補液(点滴)をまず行い、必要であれば外科的処置を行って抗生物質投与です。ほとんどの場合が2週間以内で軽快します。眼窩の腫瘍は原発性で悪性が多いようです。早期の外科的切除、化学療法・放射線療法が用いられます。

【ワラビーグループの診たて】

眼窩の変化は、飼い主様が気づきやすいですね。 愛する我が子のちょっとした変化に気づくためには、日頃から観察してあげる事が大切です。

瞳孔不同

外観の変化の三回目(最後)です。今日は“瞳孔不同”を紹介します。

瞳孔は、暗い場所では大きく開き(散瞳)、明るい場所では小さくなります(縮瞳)。 驚いた時にも瞳孔が開きます。これらは両眼とも同時にそうなります。正常な反応です。 一方、瞳孔不同は読んで字の如く瞳の大きさが左右で異なる状態です。 片側が散瞳だったり、縮瞳だったり様々です。瞳孔に作用する点眼薬を片側の眼だけに使用した場合(例えばアトロピンを散瞳目的で使用した場合)を除けば、これは異常な状態といえます。両方の眼を覗き込んで両眼をよく比べると飼い主さんも気づきます。

瞳孔不同の原因は二つに大別されます。 瞳孔を調節する神経系の障害(視神経、動眼神経、小脳の障害)、それと眼の病気です。 神経系の障害では失明なども見られます。眼そのものの病気としては、眼の外傷・炎症、頭部外傷、脳腫瘍があります。代表例は、感染症・外傷によるブドウ膜炎、緑内障、リンパ腫などです。高齢犬では虹彩萎縮による瞳孔不同もあります。虹彩がいびつになっています。

原因を特定して治療を施しますが、飼い主さんができることはまずありません。 動物病院での診察・治療を勧めます。

参考:ブドウ膜炎
ブドウ膜は眼球の外膜と内膜にはさまれた中間の層です。虹彩もその一部です。 ブドウ膜の一部または全体が炎症を起こすことがあります。これがブドウ膜炎です。 ブドウ膜炎は片側の眼だけに起こることが多いようです。

参考:緑内障
緑内障は、房水(眼の中の液体)の産生量と排出量がアンバランスになり、眼圧が異常なレベルにまで上昇すると起こります。ついには視神経が損傷を受け、視力が低下します。 痛みが強く、食欲元気がなくなります。痛みのためイラついて攻撃的になることもあります。

【ワラビーグループの診たて】

瞳孔の大きさが違う場合には脳圧が亢進し(脳がむくみ)、頭蓋骨の器の中でおさまりきらなくなり始めている事があります。この場合は、命に関わる危険な状態です。 上記のように他の場合でも、家で様子をみていていい事はありません。 このような症状がある場合には、すぐに診せていただいた方がいいですよ。

失明

失明は、片眼だけの場合も、両眼の場合もあります。
また、完全失明ではなく、視力の低下だけが見られることもあります。
遺伝的に失明を起こしやすい(白内障を起こしやすい)犬種もいますが、基本的にはどの犬種にも、どの年齢でも、そして性別に関係なく発生します。飼い主さんは、「物にぶつかることが多くなった」「動きがなんだかぎこちない」「動くことを嫌がるようになった」「薄暗いところでは見えにくいようだ」などで気づきます。

その原因は様々です。眼そのものに問題があるか、眼を支配する神経系(動眼神経、視神経、そして中枢の脳)に問題があります。
網膜が光を正常に感じ、その情報を脳へ送って情報処理されないと、動物は物を見ることができません。

光が網膜に届かない(光が遮られる)、光が網膜に届いても正しい像を結ばない(焦点を合わせることができない)、網膜が光を感知しない(網膜に問題あり)、網膜からの光信号が脳に届かない(視神経の異常)、信号は脳に届くが脳がそれを処理できない(中枢神経系の障害)・・これらが視力低下・失明の原因になります。

■眼そのものに障害がある場合
白内障(糖尿病が危険因子です)
緑内障
焦点を合わせる力の弱まり(完全に失明することは少ないようですが・・)
網膜の異常(網膜剥離、進行性網膜萎縮など)

■眼を支配する神経系に障害がある場合
眼の神経の炎症
眼の神経の外傷
眼の神経周辺の腫瘍
視覚を司る中枢神経の障害(深麻酔後、心停止から回復後に起こることもあります)

眼が濁っている場合は、まず糖尿病の検査が行われます。 眼が濁っていない場合は、眼底検査を行います。 眼底に問題があれば網膜の異常、神経炎などが疑われます。 眼底に問題がない場合は瞳孔の検査が行われます。 いずれにしても飼い主さんがわかるのは眼の濁りくらいだと思います。 ときどき眼を覗き込み、おかしければ動物病院に相談しなければなりません、手遅れにならないように。
原因により治療法は異なりますが、薬剤はステロイド剤と抗生物質が併用されます。

【ワラビーグループの診たて】

進行性網膜萎縮はミニチュアダックスフントで多く認められています。 網膜が徐々にダメになり、見えなくなってゆくという悲しい病気です。 残念ながら治療方法はありませんが、視力のあるうちにいろいろなトレーニングをすることで視覚を失ってからも快適な日常生活が送れるようになります。 初期は暗い所での視力低下です。おかしいなと思ったら早めの受診をお勧めします。

角膜・鞏膜損傷

角膜とは眼球の前面にある透明な膜です。
鞏膜は、眼球の一番外側を包む強靭な膜で、角膜を除いた部分です。強膜ともいいます。

角膜・鞏膜が損傷を受ける原因は様々です。眼に異物が入って損傷を受けることがあります。

他の犬の匂いを嗅ぐために草むらに入り込んだり、遊んでいて低木帯に走り込んだりして、草や木の枝での損傷もあります。他犬との喧嘩によることもあります。猫から傷つけられることもあります。若い犬、興奮しやすい犬、喧嘩っ早い犬、狩猟犬などに多いようです。いずれも痛みが伴いますので“眼の感覚の変化”に分類されます。

角膜・鞏膜の損傷は突然のことが多く、犬は目をパチパチさせたり、前肢でしきりに眼をこすったりします。
眼を開けられないこともあります。「夕べ、しきりに目をパチパチさせていたけど、今朝は涙がずいぶん出ているね」という具合です。

通常、角膜・鞏膜、あるいはまぶたに水腫や出血が見られます。よく見ると異物が見つかることもあります。キズが深いと(角膜・鞏膜を貫通しているキズの場合)は失明の危険も高まります。
細菌感染があると流涙・目やにがひどくなります。すぐに動物病院に診てもらうようにしましょう。

検診で異物が見つかればそれが取り除かれます。その後、アトロピン、抗生物質、抗炎症剤の目薬、その他内服薬が処方されます。キズがひどいときは手術が必要なこともありますし、治療用ソフトコンタクトレンズが使われることもあります。痛がったり、痒がったりしますので、エリザベスカラーの装着が必要です。 重症でない限り1週間ほどで軽快しますが、完治までは様子をよく観察することが大切ですし、運動は少し控え目にします。

【ワラビーグループの診たて】

角膜損傷は、目が大きくて飛び出している犬種(シーズー・パグ・ペキニーズなど)で多く見かけられます。 大きな目はまばたきに時間がかかるので、枝などが接触する際に、まぶたで保護するのが間に合わないようです。炎症を抑える目薬は、そうした際の治癒を遅らせてしまいますので、自宅の目薬で間に合わせることなく、必ず動物病院を受診して下さい。

網膜変性

“網膜”は、眼球後部の内側にある透明な膜です。
網膜には血液と酸素を供給する血管がたくさんあります。中央部は特に感度が高い光受容細胞が密集しています。黄斑と呼ばれています。

目に入った光は網膜の上で焦点を結び、その情報は視神経を通じて脳の視覚領域に伝えられます。伝えられた信号は脳で映像として認識されます。そんな大切な網膜に変性があると、当然ながら視覚に大きな影響を与えます。重症の場合は失明へとつながります。

網膜変性は網膜の異常変化で遺伝性とそうでない場合に大別されます。遺伝性の進行性網膜萎縮(PRA)は、早いものでは生後2か月~2歳までに、遅いものでは4歳を越えて視覚障害を示すようになります。進行は遅く、徐々に夜見えにくくなり、さらに昼間も見えにくくなります。

まれに急速に進行して失明することもあります。中心性進行性網膜萎縮(Central PRA)という遺伝疾患もあります。視力障害は数年以上かけて徐々に起こります。中心部が見えにくくなるのですが、失明にいたることはないようです。

網膜変性の原因として、遺伝以外に代謝病(ムコ多糖類代謝異常)、腫瘍、栄養不足(ビタミンA、E不足)、 感染症によることもあります。

診断は、眼底検査(網膜の状態を検査)、網膜電図検査(目が見えているかどうかを検査)などで行われます。いずれにしても動物病院での診断が必要です。遺伝性の場合は回復の見込みはありません。しかし、痛みがないのが救いです。

視力障害ですので、散歩中は引き綱を装着して障害物に注意しなければなりません。
屋内では家具の配置換えなどにも要注意です。障害物に匂いのする物(例えば香水など)をつけてわかるようにしてあげるのも一方法です。

おもちゃで遊んであげるときは音の出るおもちゃを使います。視力の落ちた老犬への対処と同様です。遺伝性でない場合も痛みはなく、ゆっくりと進行します。
外傷による網膜変性の場合、感染症などがなければ進行することはありません。

障害が片目だけのときは犬の行動は正常範囲です。
しかし、両目に障害のある犬では攻撃的になったり、活動しなくなったりします。
老犬では難聴などの老化に伴う症状も同時に見られることがあります。

【ワラビーグループの診たて】

進行性網膜萎縮はダックスで多く見受けられる疾患です。
網膜電位は当院では測定できませんが、眼底検査にておおよそ調べることはできます。
症状のピークは6か月齢と6歳齢ですので、該当年齢になりましたらチェックしておかれると安心です。