翔ちゃん先生の犬の飼い方コラム

第26話

病気

病気の話 〜口〜

口臭

実際はそうではないのに「口臭がある」と思い込む人がいます。心因性口臭と呼ばれています。犬では心因性口臭はありません。いつもと違う口臭、いつもよりひどい口臭には飼い主さんが気づかなければなりません。
人間の口臭の原因は様々です。食べ物からの代表選手はニンニクです。ニンニクの臭い成分(アリシン)は、血流に乗って肺に入り、呼気として吐き出されます。息自体が臭いのですから歯磨きをしても消えることはありません。肝不全ではネズミのような臭いがし、腎不全では尿のような臭いがします。また、糖尿病ではアセトン臭(マニキュアの除光液の臭い)があります。肺膿瘍、消化器系腫瘍があるときに口臭がきつくなることがあります。

さて、犬ですが、犬の口臭はほとんどの場合が歯周疾患によるものです。口臭は小型犬種、短頭犬種に多く、そして老齢犬に多くみられます。小型犬種、短頭犬種では歯の隙間が狭く、どうしても口腔内を清潔に保つのが難しくなりますし、歯垢・歯石も付着しやすくなります。小型犬種は長生きですし、飼い主さん達は柔らかな食べ物を与える傾向が強いようです。これらは歯周疾患の素因になります。3歳を過ぎると80%以上の犬になんらかの歯周疾患があるといわれています。口腔内で増殖した細菌が産生する硫化水素・メルカプタン・揮発性脂肪酸などが口臭になります。

歯周疾患以外にもいろんな原因があります。匂いの強い食べ物を食べたとき、糖尿病・尿毒症のとき、鼻炎・副鼻腔炎のとき、巨大食道のとき、呼吸器系や消化器系に腫瘍があるときなどです。歯周疾患以外が原因の場合は、動物病院で病気に応じた適切な治療が必要です。

歯周疾患はやはり予防が大切です。猫は歯磨きをとても嫌がりますが、多くの犬は極端に嫌がることはありません。毎日こまめなケアが可能です。口腔ケア製品もいくつか市販されています。これらを活用することができます。歯周疾患も重度になると動物病院での歯科処置が必要になります。スケーリング(歯石・歯垢の除去)、ポリッシング(スケーリング後の研磨)などです。場合により抜歯が必要なこともあります。

【ワラビーグループの診たて】

口腔内の状態を健康に保つことは、愛犬の健康の維持のためにとても大事なことです。最低でも、半年~1年に健診をされることをお勧めいたします。

歯の変色

犬の歯の数は、子犬で28本、生後6か月くらいに永久歯に生えかわり、成犬では42本です。今日はその歯の色の話です。まずは愛犬の口の中を覗き、歯の色を観察しましょう。どんな色をしていますか、変色がありますか、変色は1本だけですか、変色は線状ですか。

若い個体では白色ですが、年齢を重ねるにつれ、黄色、褐色、黒褐色などに変色していることが多いかもしれません。歯の変色の原因は外からやってくるもの(外因性)と体の内側に問題がある場合(内因性)に分かれます。犬では細菌による外因性変色が最も多いようです。

外因性では、細菌(緑色-黒褐色-橙色)、歯垢(黒褐色)、色のついた食べ物(食べ物の色)、歯肉の出血(緑色)、それから金属製のケージや食器をかじったときにも歯が変色することがあります。

内因性の代表例は…

・高ビリルビン血症:歯列が形成される時期に高ビリルビン血症があると、全ての歯に緑色の線状の変色が見られます。
・局所的な赤血球破壊:歯の外傷で見られ、通常は1本の歯が変色します。色はピンク色~灰色です。
・エナメル質形成不全症:全ての歯が影響を受け、色はピンク色です。
・象牙質形成不全症:灰色を帯びて見えます。エナメル質が象牙質から取れやすくなります。
・感染症:全体の歯のエナメル質形成が影響を受けます。一時的な体温上昇によるもので線状に変色が見られます。
・フッ素沈着:全体の歯が影響を受けます。黄褐色の変色です。

その他、いろんな原因で歯の成分が吸収されることがあります。このときにも変色が見られますし、薬剤(テトラサイクリン、アマルガム、ヨード剤など)や遺伝による変色もあります。

歯の変色で死に至ることはありません。しかし、変色は歯肉炎・歯周病の前兆、あるいは証拠のようなものです。さらに悪化させないようになんらかの処置をすべきかもしれません。なお、内因性変色では、歯が弱っていますので、柔らかい食事に変え、ガムなどは与えないようにすることも考えなければなりません。

【ワラビーグループの診たて】

歯の変色がないか、まずはおうちのわんちゃんねこちゃんのお口をよく観察することから始めてみてください。大切なことは、日々観察することです。はみがきまでできるたら、なおいいですよね。このくらいの変色は、大丈夫なのかな…とご不安になることがございましたら、その際にはどうぞお気軽にご相談ください。

歯肉炎

歯肉とは歯茎(はぐき)のことです。歯肉に炎症が起こると歯肉炎です。歯周病の早期と思ってください。“口臭”の項で書きましたように、「3歳以上では80%を越える個体に歯肉炎が見られる」との報告があります。特に小型愛玩犬では早い時期から歯肉炎を患うことが多いようです。

歯肉炎は日常管理で気づきます。口臭がややきつくなります。そして、口の中を見ると、歯茎が赤く腫れ、場合により出血が見られます。好発部位は頬の上顎面、つまり上の奥歯あたりです。いろんな程度に歯垢、歯石の蓄積があります。また、歯茎の表面を触ると出血することもあります。

歯肉炎の原因は歯垢の蓄積です。歯・歯茎のケアをやってあげないと、歯と歯茎の境目に沿って歯垢はどんどんたまっていきます。歯垢は、歯の表面に薄く付着し、72時間以上付着したままだと硬くなり、歯石へと変化します。歯石は歯磨きだけではなかなか取れません。歯垢はいわば細菌のかたまりで、この細菌が悪さをしてついには歯肉炎となるのです。そのまま放っておくと歯周病です。

歯肉炎のリスク要因は、年齢、犬種(小型犬種、短頭犬種)、柔らかい食餌、開口呼吸、口腔内のケア不足、尿毒症・糖尿病、自己免疫疾患などです。

歯肉炎には予防が大切です。すでに「口臭」の項で紹介した歯磨きを、できれば毎日、少なくとも週2回ほど手入れをやってあげたいものです。最近は犬用の口腔内ケア製品も多くなりました。市販品を上手に利用しましょう。

【ワラビーグループの診たて】

歯垢は何もケアしないと、3日で歯石になります。歯石になってしまうと歯磨きだけではなかなかとれません。その先の歯周病にしないためにも日々の歯磨きによるケアが大事になってきます。歯磨きの仕方などは当院のスタッフまでご相談ください。

歯周病(歯周炎)

歯肉炎が進行すると歯を支える組織まで炎症が広がります。歯肉炎の重症化です。この状態が歯周炎、つまり歯槽膿漏です。歯肉炎が歯周炎となっていく病態の総称が歯周病です。歯肉、顎の骨、歯根の外側にある層、つまり歯を取り囲んで支えている組織が破壊される病気と理解してください。最終的には歯がグラグラになって抜け落ち、食事を摂ることが困難になってしまいます。人では義歯などで代用しますが、犬はそうはいきません。

歯周炎が進行する速さは個体差があります、歯石等のたまり方が同程度でも。これは歯垢に存在する細菌の種類と数が多種多様で、かつ細菌への体の反応に個体差があるからです。

歯周病はその程度によって4段階に分けることができます。第2段階までは歯肉炎のステージです。 第3段階になると歯周炎です。第2段階まではレントゲン検査でもなかなかわかりません。

第1段階:炎症が歯肉の辺縁に限定されている
第2段階:歯肉に液が溜まったり(歯茎が腫れる)、出血が見られたりする
第3段階:第2段階に加え、膿が出ることがあり、軽度~中等度の骨の融解も見られる
第4段階:第3段階に加え、骨の融解も重度で歯がグラグラになる

歯周病には家庭でのケアが最も重要です。「予防が大切!」が歯周病の鉄則です。外国のある参考書に「第2段階までは歯磨き剤で毎日ブラッシング。第3段階ではフッ素入り歯磨き剤で毎日ブラッシングし、週2回はフッ素ジェルを塗布する。場合によっては抗生物質も。第4段階では、亜鉛-アスコルビン酸ジェルを毎日3~4回塗布し、クロルヘキシジンを毎日2回スプレーする」と書いてありました。

専門の動物病院での治療が必要な時もあります。第2段階までの治療は、洗浄、歯石除去(スケーリング)、研磨(ポリッシング)です。犬の歯周ポケットは2mm超ですが、第3段階になると3~6mmの深さになっています。洗浄・スケーリング・ポリッシングに加え、歯肉縁下掻爬術(歯周ポケットの歯石などを取り除く)などが行われます。第4段階になると歯周ポケットの深さは6mm以上に達しています。外科的に切り開いて掻爬術が行われます。

【ワラビーグループの診たて】

歯周病になると症状は様々ですが、膿みがたまったり、ひどい時には顎の骨の骨折もありえます。歯周病の場合には歯磨きだけでは追いつかず、スケーリングや抜歯などの歯科処置が必要になることも多いです。当院では歯科の診察もしておりますのでお気軽にご相談下さい。症状がひどくなる前に、早期発見早期治療が大切です。

口内炎

口の中に炎症が起こった状態が口内炎です。口内炎を患った犬は食欲が落ちます。お腹はすいているのに食べようとはしません。痛み・違和感があるからです。よだれが多くなりますし、口臭もきつくなります。ときどき口を掻くしぐさを見せます。微熱が出ることもあります。

そんなそぶりに気づいたら、まず口の中を観察してみましょう。歯茎・歯を観察し、特に問題がなければ口腔内全体を眺めてみましょう。口内炎は見た目も大きさもさまざまです。赤く腫れていたり、ただれがあったり、内部に水がたまる水疱ができたり、潰瘍(かいよう)ができたりします。最上層が崩壊して、その下にある組織が露出してできる穴が潰瘍です。穴の内部に残った死んだ細胞と食べもののカスのために白っぽい色になります。

口内炎の原因は様々です。例えば・・・

代謝性:糖尿病、上皮小体機能低下症など
免疫介在性:天疱瘡・エリテマトーデスなどの自己免疫疾患、薬物に対する過敏症
感染性:細菌、真菌、ウイルス(ジステンパーなど)
外傷性:異物、感電(電気コードを噛んで)、化学物質、咬傷(蛇など)、植物のトゲ
毒性:植物毒など
原因がわかればそれぞれの原因に対する治療が行われます。 炎症の対症療法は消炎剤、抗生物質などの投与です。 飼い主さんができることは正しい食事管理と飲み水管理です。 また、歯周病があれば治療を受けるようにしましょう。

いくつかの口内炎を紹介しておきます。

・系統性口内炎
何らかの全身性疾患があって口内炎が起こるものです。レプトスピラ症、天疱瘡、糖尿病、ビタミン欠乏症などが原因になります。患部は赤く腫れ、ただれています。食欲が落ちます。よだれが多く、口臭もきつくなります。

・潰瘍性口内炎
病気や外傷で抵抗力を弱ったときに細菌が感染して起こることが多いようです。口臭がとても強くなり、ネバネバした唾液を大量に出します。痛みが強いので食欲がまったくなくなることもあります。

・壊死性口内炎
壊死とは組織や細胞が局部的に死ぬ状態です。歯周病によって起こることが多いようです。症状の程度は強いも

【ワラビーグループの診たて】

口の中の問題は、意識をしないと分かりにくく、かなり進行した状態で来院されるケースが多くみられます。日頃から、口の中をチェックする習慣をつけていただくと早期発見早期治療につながります。