翔ちゃん先生の犬の飼い方コラム

第24話

病気

病気の話 〜皮膚〜

皮膚病(色素沈着異常)

犬の色素沈着異常は被毛を掻き分けないとなかなかわかりません。おなかや鼻面など被毛がないところ、あるいは少ないところだと飼い主さんも気づきます。まずはそのあたりを日常的に観察するようにしましょう。そして変化に早く気づくようにしましょう。
皮膚の色は茶褐色の色素であるメラニンによって作り出されます。メラニンがなければ、皮膚は青白く、皮膚から透けて見える血流のためにピンク色に見えます。メラニンの産生量が非常に少ないと皮膚の色は薄くなり、産生量が多ければ濃い色の皮膚になります。日光にさらされるとメラニンがたくさん産生され、皮膚の色が濃くなります。逆に鼻が薄い色になる季節性色素沈着低下も日照時間と関係があるようです。

メラニンは、ホルモン量が増加したために増えることがあります(副腎ホルモン低下、妊娠など)。ある種の薬剤使用が原因で皮膚の色が濃くなることもあります。水疱、潰瘍、やけど、感染症などにより皮膚に障害が起こったとき、メラニンが減少することもあります。皮膚の炎症でも色素の消失が起こることがあります。増えすぎても、減りすぎても色素沈着異常が起こります。

皮膚の色素沈着異常が起こるいくつかの原因を列記します。

全身性エリテマトーデス
自己免疫病です。SLE(Systemic Lupus Erythematosus)と略します。自分自身の細胞の中にある核に対する抗体が産生され、自分で自分を攻撃するという厄介な病気です。皮膚だけではなく、関節・脳・心臓・肺・腎臓などいろんな臓器に炎症が見られ、それに伴う障害が見られます。

鼻の季節性色素沈着低下
強い日光を受けた影響です。鼻の(全部or一部)が、薄い小麦色かピンク色になります。通常は季節性ですが、年齢とともに進行するようです。

天疱瘡
これも自己免疫病の一つです。表皮細胞(皮膚の一番外側を作る細胞)を互いに結びつけているタンパク質に対して抗体が産生されます。顔、耳、足の裏などに水泡が出来ます。

白斑症
部分的にメラニン細胞が欠如しています。鼻、唇、目の周囲、足の裏などが白く抜けたようになり、白斑として気づきます。通常は3歳未満で発生します。

白皮症(アルビノ)
先天的に皮膚の色素(メラニン)が欠落しています。遺伝病です。皮膚、被毛は白っぽく、瞳もピンク色か薄い青色をしています。同時に視力・聴力障害を伴うことが多いようです。

薬物による色素沈着異常
薬物投与でも色素沈着異常が起こることがあります。薬物による皮膚湿疹の一つと思ってください。どんな薬物でも起こりえます。通常、投与後2週間以内に起こります。
 これといった療法はありませんが、鼻の色素沈着異常には、副腎皮質ホルモンの塗布、直射日光を極力避ける、日焼け止めを使うなどで対処します。プラスチック製・ゴム製食器で、鼻の色素沈着低下・紅斑が見られることがあります。ステンレス製食器に変更すると良いようです。

【ワラビーグループの診たて】

メラニンによる色素沈着で忘れてはいけないのが、悪性黒色種(メラノーマ)です。色素沈着は皮膚の2次的な変化ですが、悪性黒色種は非常に手ごわいガンですので、 似たような症状がみられたときは、自己判断せず、まずは診察での確認をお勧めします。

皮膚病(丘疹)

なんらかの刺激を受けて皮膚に炎症性細胞がやって来てできるのが丘疹です。皮膚が丘のように盛り上がり“ブツブツ”としています。犬種、年齢、性別に関係なく、どんな犬にも見られます。

原因は、ニキビダニ症、細菌性毛包炎、皮膚糸状菌症、皮脂腺炎、ペロデラ皮膚炎(桿線虫皮膚炎)、日光過敏などです。難しい病名が並びましたが、「丘疹が見られたときは、外部寄生虫・細菌・真菌(カビ)・日光などを疑われる」とご理解ください。病気・薬物投与などで免疫状態が低下しているとき、飼養管理が悪いときなどに、丘疹は起こり易くなります。なお、日光過敏による丘疹は屋外飼育の短毛種に多いと言われています。

皮膚に丘疹が見られる代表としてニキビダニ症を紹介しておきます。ニキビダニ症は毛包(毛根を包んでいる場所)にニキビダニが多数寄生することで起こります。特に目や口の周り、前足に寄生することが多いようです。アカラス症ともいいます。ほとんどの犬に少数は寄生しているといわれていますが、ニキビダニがいるからといって必ず発症するとは限りません。

ニキビダニによる居所性皮膚病(体の一部分の皮膚病)は3~6か月齢の若い犬に多く、全身性皮膚病は“老いも若きも”です。軽度の局所性は一時的で、治療しなくても治癒することもあります。全身性はなかなかやっかいです。なお、丘疹はニキビダニ症の初期症状です。病気が進行すると脱毛・痒み・膿胞が見られます。さらに細菌感染が加わると痒み・痛みが強くなります。特効薬はフィラリア予防薬です(同じ成分ですが、使用濃度が違います)。

【ワラビーグループの診たて】

ニキビダニ症が全身に起こった場合は、積極的な治療を行う必要があります。1歳未満の若いイヌの場合は、成長に従って治療から離脱できる事も多いですが、老犬の場合は何らかの免疫機能低下が関与している場合が多いので、注意が必要です。

皮膚病(水疱・膿疱)

皮膚がぷっくりと膨らみ、内部に液が溜まった状態を水疱・膿疱と言います。内部に溜まった液が透明なら水疱です。化膿して膿(うみ)が溜まったものが膿疱です。これらは、水腫・浮腫、ウイルス感染、細菌・カビ感染、自己免疫疾患などで起こります。

水疱が見られる病気には、全身性・円板状エリテマトーデス、水疱性天疱瘡などがあります。いずれも自己免疫疾患です。特定犬種にこのような皮膚病を伴う自己免疫疾患が多いと言われています。

膿疱が見られる病気には、表在性膿疱、天疱瘡、角層下膿疱症、皮膚糸状菌症、好酸球性膿疱症などがあります。膿疱を伴う皮膚病として犬に最も多く見られるのは、表在性膿皮症と言われています。

表在性膿皮症は、アレルギー、内分泌疾患、皮膚真菌症、ダニ寄生などに続いて細菌(特にブドウ球菌)の感染が起こった結果です。毛が抜けやすくなり、場合によっては完全脱毛になることもあります。そして丘疹・膿疱などが見られます。診断にはいろいろな方法が用いられますが、皮膚をスタンプし(直接押捺標本)、細菌が観察された場合にはその疑いが濃くなります。表在性膿皮症は適切な抗生物質を3週間ほど投与すると治癒します。これに加えシャンプー療法も功を奏します。痒み、臭み、ベトベトを取り除くのにも役立ちます。

水疱・膿疱の治療には各種抗生物質、ステロイド剤が用いられます。なお、ステロイド剤使用の場合は、二次感染、肝障害、クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)などへの配慮が必要です

【ワラビーグループの診たて】

膿皮症はワンちゃんには最も多い皮膚病です。 軽症の場合は、スキンケア(シャンプーをすること)でコントロールできる事が多いですが、こじらせるとなかなか治りません。シャンプーをしても変わらない場合は、早めにご来院下さい。

皮膚病(結節:けっせつ)

結節は直径1㎝以上の硬くて盛り上がった皮膚病変のことです。なんらかの刺激で炎症が起こり、炎症に伴う細胞(炎症性細胞)が皮膚の下に浸潤してきた結果です。結節ができてもすぐに小さくなり消えていけば問題ないのですが、長く続いたり、腫瘍であったりした場合は厄介なことになります。

結節の原因には、アミロイド症、肉芽腫(好酸球性、化膿性、非化膿性)、皮下脂肪織炎、石灰沈着症(皮膚、限局性)などがあります。遺伝的な原因もあります。悪性組織球増殖症、結節性皮膚線維症です。これらとアミロイド症は致死率が高い結節とされています。

原因に肉芽腫と書きましたが、これは腫瘍ではありません。ある刺激に対する生体の正常な回復機能です。炎症の原因物を様々な理由で体外に排出できない場合にそれを組織の中で閉じ込めてしまおうとする機能です。例えば不活化ワクチン接種後にまれに見られる“しこり”がそうです。異物を封じ込めようと炎症性細胞が浸潤して肉芽腫を形成します。ワクチン接種による肉芽腫は時間の経過とともに小さくなり、最終的に消滅するのが一般的です。

なんらかの異物への反応としての結節もあります。コンクリートダスト、ガラス繊維が舞っているような場所で犬が飼育されると皮膚に結節ができることがあります。大型犬が硬い床面で飼育された場合もそうです。これらには飼主さんが対処できます。劣悪な飼育環境から飼犬を解放してあげればよいのです。大型犬には柔らかいベッドを用意することもできます。

結節の治療には外科的切除もありますが、多くの場合は経過観察・通院での投薬で完治します。ただし、悪性腫瘍による結節の治療はなかなか困難です。

【ワラビーグループの診たて】

わんちゃんで一番よく見かける結節は、大型犬で肘の外側によくみられる、いわゆる「たこ」です。 暑い季節は冷たい場所を好みますが、おおよそ冷たい場所は堅い床材である場合が多いので、これは夏場に多く見かけます。 逆に冬場は暖かい場所(通常は柔らかい場所であることが多い)を好みますので、おおよそ消えるか、目立たなくなります。 ご心配な場合は、ご来院いただければ鑑別できますので、ご遠慮なくいらしてくださいね。

皮膚病(剥離:はくり)

皮膚の表面(つまり表皮細胞)が脱落してしまう皮膚病が剥離性皮膚病です。飼主さんは「最近、フケのようなものが多いな」で気づくことが多いようです。原因により原発性剥離と続発性剥離に分けられます。

表皮細胞は遺伝的にその増殖・成熟が制御されていますが、角化という成熟過程がおかしくなって起こるのが原発性剥離です。2歳までに特定の犬種で認められる脂漏症、ビタミンA欠乏、亜鉛欠乏などで起こります。

他の病気のため、表皮細胞の正常な増殖・成熟が阻害されることがあります。これが続発性剥離です。どんな年齢でも、どんな犬種にも見られます。皮膚アレルギー、内分泌異常、細菌感染、腫瘍などの基礎疾患が引き金になります。加齢、不適切な食餌も要因の一つです。

皮膚病全般に言えることですが、まずは飼主さんが持っている情報を先生に伝えることが重要です。病歴はどうだったか、痒みはあるか、元気はあるか、体重はどうか、おしっこの頻度と量はどうか、体毛の再生はあるかなどです。飼主さんの情報から先生は病気を絞り込み、的確な検査・診断・治療をしてくれます。

治療は原因によって様々です。シャンプー、モイスチャークリームの処方、そして全身療法の組み合わせです。

軽症には低アレルギー性シャンプー、ややひどい場合は薬用シャンプーを使います。薬用シャンプーは含有成分でいろんな作用があります。角質溶解作用(硫黄、サリチル酸、タール、過酸化ベンゾイルなど)、角質形成作用(硫黄、サリチル酸、タールなど)、保湿作用(乳酸、ラノリンなど)、抗菌作用(過酸化ベンゾイル、クロルヘキシジンなど)などです。シャンプーに時間をかけ過ぎないことと、シャンプー成分をきちんと洗い流すことが大切です。

シャンプーが終わったら、皮膚の水分を保持させるためにモイスチャークリームなどを使います。原因が明確であれば根治療法として全身療法を行います。例えば原因が亜鉛不足であれば亜鉛サプリメントを与えたりします。いずれにしてもきちんと診断できれば、的確な薬を処方してくれます。

【ワラビーグループの診たて】

皮膚病の初期治療はシャンプー療法ですが、ひとえに「薬用シャンプー」といっても上記のとおり様々な種類があります。 種類を間違えると、せっかく買ったシャンプーで皮膚を悪化させることもあります。 シャンプーが合わないなと思ったら、遠慮なくご相談ください。 その際には、ご使用のシャンプーをそのままお持ちいただけると参考になりますので助かります。

皮膚病(糜爛・潰瘍:びらん・かいよう)

病変が表面だけでなく深部におよぶと糜爛(びらん)・潰瘍になります。いわゆるジクジク状態です。なかなか治り難いのが特徴です。

糜爛・潰瘍の原因も様々です。自己免疫病(天疱瘡、エリテマトーデス)、免疫疾患(血管炎、若年性蜂巣炎)、寄生虫疾患(ノミアレルギー、疥癬)、遺伝的疾患(若年性皮膚筋炎、表皮水疱症)、代謝疾患(糖尿病、尿毒症)、腫瘍(扁平上皮癌、肥満細胞腫)、栄養疾患(亜鉛反応性皮膚炎)などです。なお、括弧内は代表的な病気を記載しています。

原因が様々ですので確定診断がなかなか困難な場合も少なくありません。それでも、痒みがあるか、病原体(寄生虫、カビ、細菌)がからんでいるか、どんな食餌か、全身症状はあるか、病変の現れ方と広がり方はどうか・・などが診断のための有益な情報となります。

治療方法も原因に応じて様々です。全身状態改善のための補液・栄養補給が必要な場合もあります。

今回の話題からややはずれますが、「皮膚病に使用する代表的な薬物とその作用」を簡単に紹介することにします。

・硫黄:薬用シャンプー・軟膏として乾性脂漏症によく用いられます。角質溶解・角質形成作用があります。
・サリチル酸:脂漏症治療薬としていろんな製品に使われています。サリチル酸の薬効は、基本的には角質形成ですが、角質溶解、痒み止め、抗菌作用もあります。硫黄といっしょに乾性脂漏症によく用いられますし、鼻・耳の皮膚病にも用いられます。
・コールタール:脂漏症によく用いられますが、刺激性のある薬剤ですし、被毛に色がつくこともあります。また、猫には毒性が強く、同居猫がいるときは要注意です。
・過酸化ベンゾイル:基本的な薬効は、角質溶解、痒み止め、皮膚充血の緩和、脱脂、抗菌作用です。油性脂漏症をはじめ多くの皮膚病に効果があります。薬用シャンプーの成分としてよく使用されています。この薬剤に過敏な人もいますのでご注意を。
・クロルヘキシジン:殺菌作用の強い薬剤です。細菌・真菌性の皮膚病によく効きます。

【ワラビーグループの診たて】

皮膚病におけるシャンプー療法は、とても重要な位置付けになります。その子に合った成分の入っているシャンプーを適切に使用しましょう。

皮膚病の観察ポイント

動物病院での皮膚病の検査は、皮膚掻爬、被毛の観察、細胞診、細菌・真菌培養などで行いますが、実は病歴が診断の重要な決め手となります。飼主さんが顕微鏡などをそろえて自分で検査することはまず不可能です。しかし、病歴について一番知っているのが飼主さんです。痒みの程度・初発部位・進行状態などを先生へきちんと説明できるようにしておきましょう。観察ポイントをいくつか紹介します。

・年齢:多くの皮膚病は発生しやすい年齢があるようです。 例えば毛包虫症と皮膚糸状菌症は子犬に多いし、アトピーは1~3歳の若い個体に多いとされています。
・痒みの有無と程:細菌による二次感染がない限り、内分泌性疾患による皮膚病では痒みはありません。 一方、ニキビダニ症とヒゼンダニ症(疥癬)は猛烈な痒みを伴います。足でボリボリ掻いてくれると飼主さんも痒がっていることに気がつきます。しかし、足で掻けない場所は、舐めたり、噛んだりします。これも痒みの兆候です。見逃してはなりません。
・進行状態:今は脱毛の状態であるといっても、どのように進行したかは重要なポイントです。痒みがある皮膚疾患では、自分で自分を傷つけ、その後に脱毛したり、さらに進行すると膿がたまったりします。
・季節性:季節性に病変が出現することもあります。ノミ・ダニ、天候(日光、高湿度)、性ホルモン(発情期)などの関与が疑われます。
・病変が最初に発生した部位:原因によっては病変の部位が偏ることがあります。例えば、アトピーは顔と足、ツメダニ症は背中、疥癬はお腹、内分泌性脱毛は体躯に発生することが多いようです。
・ノミとダニ:ノミ、ダニが寄生している個体では皮膚トラブルが多くなります。
他の動物との接触と生活環境:他の動物と接触することにより伝染する皮膚病もあります。ノミ、ヒゼンダニ、ツメダニ、皮膚糸状菌などです。また、環境の変化が皮膚病にかかわることもあります。

今回が皮膚病の最終回です。どんな薬剤が、どんな用途で、どんな皮膚病に使われるかも前回に続いてまとめておきます。

・一般皮膚病の薬浴・湿布剤:酢酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、バスオイル
・痒み止め:非ステロイド系痒み止め、ステロイド系痒み止め
・収斂剤:タンニン酸、ヨード、アルコール、フェノール(※収斂剤は皮膚の蛋白質と結合し、沈殿して不溶性の被膜をつくり局所の血管を収縮させます。その結果、液体の分泌、白血球の遊走を抑え、組織の充血取り去り、そして皮膚を乾燥させる薬物です)
・二次感染防止:アルコール、プロピレングリコール、クロルヘキシジン、酢酸、ヨード、塩化ベンザルコニウム
・脂漏症:硫黄、サリチル酸、コールタール、過酸化ベンゾイル、硫化セレン
・膿皮症:過酸化ベンゾイル
・膿疱性皮膚炎:過酸化ベンゾイル
・毛包炎:過酸化ベンゾイル、クロルヘキシジン
・アトピー・アレルギー皮膚炎:硫黄、サリチル酸、タール、ヒドロコルチゾン

【ワラビーグループの診たて】

皮膚病は治療も重要ですが、体質や皮膚のコンディションに合ったシャンプー剤、保湿剤も重要になってきます。 皮膚について気になることがございましたら、お早めにご相談ください。