翔ちゃん先生の犬の飼い方コラム

第16話

問題行動

老齢犬(シニア犬)の問題行動

1.老齢犬の問題行動

ワクチンやいろんな治療薬のおかげで犬の寿命もずいぶん延びてきました。老齢犬(シニア犬)特有の病気が話題になります。
人間と同様、生活習慣病、腫瘍疾患、そして認知症が多くなってきたとの報告もあります。
その認知症も含めてですが、お年寄りになってから増加傾向を示すのが「老齢犬の問題行動」です。
泣く、分離不安、排泄問題行動、破壊的行動、恐怖症などが多くなります。
加齢による変化は一般的に進むばかりで元に戻ることはありません。

ただし、年齢とともに少なくなる(改善されてくる?)問題行動もあります。
攻撃性、興奮性、服従性に関わる問題行動です。
お年寄りになると飼い主さんとの信頼関係も成熟し、よく言うことを聞くようになります。
若い頃には、飼い主さんの命令は無視するし、お客さんが来たと言っては興奮していた犬が、めったなことで興奮したり、攻撃的になったりはしなくなります。
まあ、老成したといえば聞こえはよいのですが…単に面倒くさがりで怠惰になっただけかもしれません。

老齢犬はストレスに対して感受性が高いようです。
ちょっとした環境の変化、身体的疾患が不安増大を誘起し、泣き声をあげる、粗相をするといったさまざまな問題行動に結びつきます。人間も同様ですね。
「年を取ってワガママになって困るわ!」と思ってはなりません。お年寄りはとても敏感なのです。
優しく見守り、そしていたわってあげましょう。人も犬も老いには勝てません。

2.老齢犬の問題行動

加齢に伴う身体的変化(老化)と代表的な行動を表示します。いろんな老化現象が原因で様々な行動が見られます。
多くは人間と共通しています。

対処のポイント1:代謝の低下
具体的な対処法:温かさを求め、寒さを避ける。よく目を覚まし、落ち着かない

対処のポイント2:消化器系の衰え
具体的な対処法:歯の疾患からの痛み・いらつきのため攻撃的になる。腸管機能が低下し、排泄に関わる問題が多くなる

対処のポイント3:呼吸器系の衰え
具体的な対処法:いろんな作業能力が低下する。散歩や運動を嫌がる

対処のポイント4:泌尿器系の衰え
具体的な対処法:腎機能が低下して多尿となり、排尿に関わる問題が多くなる。前立腺肥大があるとオシッコが多くなり、おもらしも見られる

対処のポイント5:骨・筋肉の衰え
具体的な対処法:運動能力が低下する。おもらしが見られるようになる。関節炎などによる痛み、そしていらつきが見れるうになる

対処のポイント6:神経系の衰え
具体的な対処法:(認知能力の低下で⋯)命令に従わないことがある。方向がわからくなることがある。学習した行動ができないことがある

対処のポイント7:感覚の衰え
具体的な対処法:(視覚、嗅覚、聴覚の衰えで⋯)いつもイライラしている。極端に怖がることがある

3.一般的・具体的対処法

老化に伴う問題行動が見られた場合の一般的な対処は以下のようなことです。

・問題行動の背後に何か病気がないかを調べ、それを治療する
・問題を引き起こす、あるいは強化するような刺激を突き止め、それをできるだけ排除する
・健康状態、運動能力、認知障害のレベルに応じて、環境を整える

老齢犬の問題行動への対処を、もう少し具体的に考えてみましょう。

・排泄の問題行動
老齢犬は、様々な理由で、排尿・排便が頻繁になります。
外に出す、あるいは散歩の回数を増やしてあげなければなりません。
もし、それができないような事情があるときは(例えば共稼ぎで昼間は誰もいないなど)、犬が自由に出入できる専用のドアが設置できればいいですね。
ボビーの年齢を考えると、我が家も改築がそろそろ必要なようです。
でも、「借金が終わらないと改築はできない」とか言っていたなあ、内緒でやっちまうか。
関節炎、筋肉の衰えがある犬では、排泄場所までたどり着けないこともあります。
排泄場所を工夫したり、痛みを抑制する薬物を使ったりするのも一方法です。

・ストレス
老齢犬はストレスに弱いようです。大きなストレスを受けると、食欲不振、破壊行動、無駄吠えなどが誘発されることがあります。
飼い主さんがかまってくれる時間が短くなったり、飼い主さんの出勤時間が早く、帰宅時間が遅くなったりすると、老齢犬はとたんに落ち着かなくなります。場合によっては、極度の分離不安に陥るかもしれません。

もし、変化が予想される場合は、徐々にその変化に慣らしていく必要があります。
突然の変化は老齢犬には酷なことです。

・攻撃性
以前ならば攻撃まで至らなかった状況でも攻撃が見られることがあります。
この攻撃性は、どうも感覚器官の衰えと関連しているようです。

他人を少しばかり恐がる犬は、人が近づいてくると自分から避けることを学習しているものです。
ところが、耳が聞こえにくい、目が見えにくい、つまり聴覚・視覚障害があると、他人が近づいてくることになかなか気づきません。
すぐ近くに突然他人が出現したように感じますし、驚きのあまり、防御性、あるいは恐れからの攻撃へと発展することがあります。

「年老いて、聴覚を失いつつあるな」と飼い主さんが感じれば、声による命令のかわりに、手の動きによるシグナルに変えていくのはどうでしょう。
それから、お客さんには、感覚障害があることを知らせて、近づく際は注意してもらうようにします。
まあ、客人があるときは静かで落ち着ける場所に置いておく方が無難かもしれません。

老齢犬のいる家庭に子犬が新たに飼われたときはどうでしょう。
若いときなら、子犬と一緒に遊び、いけないことをしたときは軽く噛むことでたしなめることもできます。

でも、子犬の活発さについていけないほど衰えているときもあります。そんな場合は離して飼育する必要もあります。

あるいは、飼い主さんが子犬をくたくたになるまで遊ばせ、それから老齢犬といっしょにするという方法も考えられます。
いっしょにしたときも、飼い主さんが介入して、子犬の乱暴な遊びを中断させなければならない場面もちょくちょくあります。よく目を配るようにしてください。

多頭飼育の場合、順位制にかかわる問題も発生します。
それまでボスの座にいた犬が年老いて、次の世代への政権交代が近づくと、ボスの座をめぐっての争いに発展することがあります。

飼い主さんが介入し、老齢犬の味方をすると、問題はさらに複雑化します。
順位の明確化を促す方法(犬自身がつけた順位を尊重し、順位の高い方を優先)、逆に順位を明確化しない方法(両方同時に命令を与え、その解除の順番を毎回異なるようにするなど)もあるようです。

・眠りが浅い、夜鳴き
元来、犬は夜ずっと眠っているわけではありません。短いサイクルで眠ったり起きたりを繰り返しています。

老化による様々な変化は、この短いサイクルをも狂わせてきます。
夜、落ち着きがなかったり、ちょっとした物音を恐がったりなどが見られます。
そして、ついには夜鳴きとなるかもしれません。おしっこがしたくてということもあります。

排泄スケジュールを変えたり、十分な運動をさせたり、かまってあげたりで対処します。
薬物のお世話になることもあります。

今回で“問題行動”に関する一言コラムは完了です。いかがでしたか、少しだけでも参考になれば幸いです。

次は「ワクチン」を取り上げることにしています。ではでは、また。