第12話
問題行動
他犬への攻撃の対象は主として二つです。それは、同一家庭内の犬とご近所の犬です。
同一家庭内の犬に対しては、支配性・優位性が関与する攻撃と自己防衛のための攻撃があります。
ご近所の犬へも同様の攻撃を仕掛けることがあります。
さらにグループ防衛のための攻撃、捕食性の攻撃を示す場合もあります。
他犬への攻撃行動の頻度は、同一家庭内の犬に対してよりご近所の犬に対しての方がはるかに高いようです。
原因、対処法及びケーススタディを二つ(同一家庭内、ご近所)に分けて紹介することにします。
・支配階級制がきちんと確立していない、または不安定なとき
同一家庭内で飼育されている複数の犬には、犬達自身が決めた支配階級制があります。
基本的には飼育期間が長い(つまり古くからいる犬)大きな犬、強い犬が犬達の支配階級性の頂点にいます。
ところが、新しい犬がやってきたとき、小さかった犬が成熟してきたときなどに、この支配階級制が一時的に不安定になることがあります。
そして、自分のポジションを確認するための争いが起きるのです。
・ホルモンが影響して
同一家庭内の犬への攻撃は雌より雄に多い問題行動です。
どうも雄は支配階級制に敏感なようです。男性ホルモンの影響でしょうか。
ただし、地位が確定すると、びっくりするくらい争いが少なくなるようです。
一方、雌にも階級性はありますが、争いに発展することは少ないと言われています。
ただ、例外的に争いの好きな雌もいることを忘れてはいけません。
発情期なんて要注意です。
雌同士の争いがはげしくなると、血を見る闘争に発展することもあります。
雄同士より烈しいくらいです。
ある学者さんなんて「雌同士の争いは雄より危険!」と警告しているくらいです。
・過去に苦い経験をした
一度争いが起こると、その後はお互いに意識過剰で攻撃的になります。
姿を見ただけで争いが始まるようになることも少なくありません。
それから、一方が社会化期の経験に乏しいときは相手のボディランゲージを理解できず、そのことが争いの元になることもあります。
・飼い主さんが間違った認識をしている
どうも、飼い主さんは弱い方・小さい方の味方をしがちです。
攻撃的な方(実は優位にある場合が多い)だけを叱ったり、罰を与えたり弱い方だけに食べ物やおもちゃを与えたりします。
実はこれが最大の間違った認識なのです。
犬達が決めた支配階級性を飼い主さんがわざわざ不安定なものにしているのです。
家庭内の複数の犬相手と人間の子供相手は異なるのです。
「あなたの方がお兄ちゃんだから我慢するのよ」
「あなたの方が大きいのだから妹に譲りなさい」は、犬社会では通用しません。
犬にとって何が自然であるのかを論理的に理解し、犬達の支配階級制を平和的で安定したものにしなければなりません。
それから、人に対する攻撃性ほど気にかけない飼い主さんもいます。
他の犬に対して攻撃的でもそれほど叱らず、人に対して攻撃的になったときはこれでもかと強く叱ります。
これが逆効果となり、犬同士の争いが激しくなることもあるようです。
犬同士の争いは、一方、あるいは両方の犬にとって危険なものであることを十分に認識しておくべきです。
他の犬に攻撃的になったり、唸ったりすることを止めさせようと知らず知らずのうちにご褒美(撫でる、食べ物・おもちゃを与える、遊びに誘う)を与えていることがあります。
「喧嘩しちゃダメよ、ほらお菓子をあげるから」。
そのご褒美が攻撃行動を強化しています。
命令に正しく反応する訓練がなされていない場合、飼い主さんの支配性が十分でないときなどは、飼い主さんが犬をコントロールできていません。
当然ながら、他の犬への攻撃もコントロールできません。
・飼い主さんが問題を理解する
まず犬のパックには必ず支配階級制があることを理解してください。
上位の犬が優位性を示すために、下位の犬に対してちょいと唸ったり叱ったりすることもあります。それが自然なのです。犬の仁義なのです。
安定した階級性が確立されていないときに烈しい争いが起こります。
飼い主さんが介入してその階級制確立を促進しなければならないときもあります。
介入の仕方は唯一つ、優位な犬をいつも優先するのです。
飼い主さんに挨拶させるとき、食餌を与えるとき、リードをつけるとき…いずれも優位な犬が最初です。
・問題が起きた状況を避ける
所有欲が絡んで争いが絶えないときもあります。
例えば食餌です。
これは別々に食餌を与えることでおさまります。
競争心・独占欲からの場合もあります。
食餌、遊びを別々にする、家庭内から犬のおもちゃをなくすなどで対処します。
いずれにしても、危ない状況を避けてあげることが問題解決の早道かもしれません。
・飼い主さんが間違いを正す
犬同士が決めた順位に従って、何ごとも上位の者を優先させなければなりません。
通常、飼い主さんはどちらが優位であるかを知っています。
明確でない場合もあります。
わからない場合は、犬をつぶさに観察してください。
ドアの出入りはどちらが先か、車から最初に降りるのはどちらか、家族に最初に挨拶するのはどちらか、休息場所に最初に近づくのはどちらか一つしかないお菓子・おもちゃを取るのはどちらかなどを見ると自ずと上位の犬がわかります。
・通常の服従訓練をし、さらに飼い主さんの支配性を強める
一方、あるいは両方の犬が飼い主さんの命令に従わないようであればどうしようもありません。
・飼育環境を変える
攻撃行動に危険を感じる場合、留守をするときは別々にしておく方が無難です。
・道具を使う
これも危険を感じる場合ですが、一方あるいは両方をつないでおくのも一手段です。
あるいは口輪をする方法もあります。
・去勢等をする
雄であれば、去勢をするのも効果的です。
競争心が減退し、体臭もやや変化したりして、攻撃行動が少なくなります。
ただし、その有効率は約60%だそうです。
つまり、玉がなくなっても(すみません、下品な表現です)行動を改めない奴もいるのです。
発情に絡んで攻撃行動が見られる雌では、卵巣を取ってもらう方法も推奨されます。
実際の対処1:従順な方だけに特権を与えない
解説:従順な方だけに椅子に登る許可などの特権を与えてはいけません。「ここに座れるのは〇〇ちゃんだけ。あんたは大きいからそこにいなさい!」と従順な小型犬だけに特権を与えてしまうと⋯同居している大型犬は気分を害します。
実際の対処2:安定的な順位が確立するように促す
解説:外に出したり、撫でたり、食餌を与えたりの場面では、必ず優位(上位)の犬を優先します。上位の犬は満足し、下位の犬をいたわるようにもなります。
実際の対処3:唸り始めたら下位の犬を叱る
解説:一方、あるいは両方の犬が唸り始めたときは、ただちに”下位(主に従順な方)”の犬を叱ります。たとえ上位の犬がトラブルを仕掛けたとしても⋯。つまり、人が善悪を判断して、悪いと思った方を叱ることは止めなければならないのです。
実際の対処4:犬の地位をきちんと確認する
解説:どちらが上位かわからないときは、十分に観察して犬達の地位を確認しなければなりません。1、2、3が実行できません。
実際の対処5:あまり過敏にはならない
解説:ちょっとした争いまで飼い主さんが介入する必要はありません。争いが順位確立に必要な場合だってあります。あまり過敏に反応してはなりません。
実際の対処1:お留守番は別々に
解説:留守をするときは必ず別々にします。「ちょっとそこまでだから大丈夫だよ」は許されません。
実際の対処2:服従訓練を繰り返す
解説:服従訓練を長期にわたって繰り返します。興奮状態でも、犬が別のことをやりたがっていても、毅然とした命令を行いそれに従わせるようにします。
実際の対処3:強い叱りで躊躇させ、命令に従わせる
解説:唸り始めたときは、犬がただちに止める程度の強い叱り方をします。唸りを止めたときは、犬を呼び「お座り」等の命令に従わせます。
実際の対処4:無意識のご褒美は厳禁
解説:攻撃行動が見られたときに無意識のご褒美を与えてはいけません。「よしよし、喧嘩しないのよね〜」ではダメなのです。
実際の対処5:競争をさせない
解説:おもちゃの取り合いなど、競争になるな状況一時的に避けることが肝要です。
実際の対処6:別居作戦も
解説:相手の姿を見たら争いが始まるような場合、一日に数時間は部屋のそれぞれ反対側につなぎます。その状態で食餌を与えたり、訓練したりします。犬がリラックスし、攻撃的にならなければ、数日かけて距離を縮めていきます。他の時間は別々にしておきます。家庭内別居作戦です。