翔ちゃん先生の犬の飼い方コラム

第11話

問題行動

他人への攻撃行動の原因と対処法

1.他人への攻撃行動

他人への攻撃行動も困った問題行動です。
その原因の根には縄張り意識と自己防衛があります。

いずれにしても他人に迷惑がかかりますし、「しつけがなってないわね!」なんて言われたりします。

自分の家、あるいは自分の居場所に、他人が入ってきたときの攻撃行動は縄張り意識が原因です。
自分の家族、縄張りを守ろうとする行動、つまりグループ防衛のためです。

自己防衛による攻撃行動は、多くの場合が自宅から離れた場所で他人に示すことが多いようです。
飼主さんがそばにいるときはそうでなくても、飼主さんがちょっと離れたときに他人が近づこうとすると攻撃的になる犬もいます。

飼主さんが上位であることをきちんと認識させなければなりません。
叫んだり、叩いたりの罰で認識させるのは逆効果です。
さらに対立を生むだけです。
地位をめぐる争いがヒートアップして“熱い戦い”が続くことになります。

ニッと歯をむき、唸り、吠えます。これは自分自身を守ろうとする行動です。

ある特定な他人に攻撃的になる犬もいます。
例えば、過去に子供から嫌なことをされた犬は、いつでも、どこでも、どの子供に対しても攻撃的になります。
これも自分自身を守ろうとする行動です。

いずれの攻撃行動もその原因及び対処法が似通っています。
いっしょに解説することにします。少々混乱するかもしれませんが・・。

2.原因

【原因のまとめ】

  • トラウマ、あるいは嫌な経験
  • 飼主さんが無意識に・・
  • 基本的服従訓練の不足
  • 飼主さんの支配性が不十分
  • 犬の社会性
  • 劣悪な飼育環境

【社会化の失敗】

昨今よく耳にする幼犬時の“社会化”は、犬が社会(人、物、他の動物など)に順応するためにとても大切なことです。

社会化期にいろんなタイプの人間との接触が少ないと、知らない人を信頼することができません。

さらに怖れさえ感じるようになります。
他人への怖れは縄張り意識を強化するようです。縄張り意識が強くなると、どんな状況下であっても他人と関わることを避けようとする傾向が出てきます。

【飼主さんが無意識に…】

自宅、庭に入ってきた人に対して、唸ったり、吠えたりするようになった場合、ある飼主さんはすぐに叱って止めさせようとします。

一方、別の飼主さんはまったく逆のことをしてしまいます。
つまり、撫でたり、ご褒美を与えたりしてしまうのです。

「犬が吠えたのは、家を守る気持ちからだ。とても良い子だ」と思うからです。
実際、多くの飼主さんは、知らない人には少しばかり攻撃的な方が良いと考えています。

しかし、これは他人に攻撃的な犬を育てていることになりませんか。
「知らない人を脅せば、ご褒美がもらえる」と勘違いさせていませんか。

女性一人と犬との夜の散歩のときに、知らない人(男性)が近づいて来た場合はどうでしょう。
やはりちょっと警戒してしまいます。その気持ちは犬にも伝わります。
同調した犬が吠えつきます。

さて、その女性はどうするでしょう。
犬が守ってくれたとの感謝の気持ちから、思わず撫でてしまいます。

吠えたことを褒められた犬のその後はどうなるのでしょう。

飼主さんに「知らない人に攻撃的になったときはどうしますか?」と質問すると、ほとんどの飼主さんは「撫でたり、話しかけたりしておとなしくさせる。
場合によっては遊びに誘ったり、食べ物を与えたりして気をそらすようにする」と答えます。

この方法はしばらく功を奏します。
しかし、のちのち攻撃の程度が強くなり、シリアスな問題となることもあります。

なぜなら飼主さんが無意識に攻撃行動にご褒美を与えているからです。
かといって、激しく叱ったり、叫んだりした場合はどうでしょう。

犬は「ボスもいっしょになって攻撃してくれている」と誤解することもあるようです。
“適度な叱り方”が必要になります。ここが難しいところです。

「誰にでもフレンドリーになるように育てるといざというときに守ってくれないのでは?」と考えがちです。

そして、知らない人への攻撃行動には飼主さんは比較的寛容です。
その気持ちがわからない訳でもありません。

でも考えてください。その結末は他人への攻撃性を持つ犬への変身なのです。

【基本的服従訓練の不足】

基本的な服従訓練ができていないと、どんな状況下でも犬をコントロールすることが難しくなります。

服従訓練は犬を育てる基本中の基本です。
甘やかせるばかりではやはりダメなのです。

また、服従訓練が不十分だと飼主さんがボスの座を確保することもままなりません。

【飼主さんの支配性が不十分】

飼主さんの支配性(優位性)が不十分だと、コントロールがとても難しくなります。
命令になかなか従いません。

こんな犬に他人への攻撃性が出てきたとき、これを修正することははなはだ困難になります。
さらに、支配性が関与する家族への攻撃もしばしば見られるようになります。

【犬の社会性】

同一家庭内で多頭飼育されている犬達は、一匹が知らない人に吠えつくと、他の犬もそれに参加して吠え始めます。

とてもフレンドリーで攻撃性の全く見られない犬でも、パックの他の犬がそのようにすると、徐々に吠えるようになってしまいます。

【劣悪な飼育環境】

外に繋がれ、一匹だけで長時間を過ごす犬は、知らない人に対して攻撃性が強くなると考えられています。
制限された飼育環境です。要求不満が高じた結果かもしれません。
散歩、一緒に遊ぶなどで欲求不満解消をやってあげたいものです

3.対処法とケーススタディ

【基本的な対処法】

  • 攻撃的になる状況を避ける
  • 飼主さんの間違った考えを正す
  • 服従訓練を行い、飼主さんの支配性を強化する
  • 攻撃的になった状況で訓練する

・攻撃的になる状況を避ける
散歩をさせるときには、必ずリードを着けましょう。
「うちの犬は大丈夫だ」と過信してはいけません。

リードを着けることは、他人の安全確保とともに、犬を飼主さんのそばに置いてコントロールすることにその意義があります。

他の犬にフレンドリーであればドッグランなどで犬を離す場合もあります。
あるいは人がいない野山で自由にさせることもあります。

でも、“呼べばすぐに戻ってくる”の訓練(呼び戻し)を必ずしておいてください。
これができないようではリードから離すべきではありません。

来客時に犬を別の部屋に隔離するという方法もあります。
注意しなければならないのは、いつも家族と一緒にいる犬にとって“隔離”は心理的に嫌なものなのです。

“隔離”が攻撃性を助長することもあります。
来客=隔離と学習すると、お客さんが来たと同時に攻撃性を示すようになることだってあるのです。

・飼主さんの間違った考えを正す
多くの飼主さんは「あまりフレンドリーだと、いざというときに守ってくれない。少々の攻撃性は良いのだ」と考えがちです。。

でも、これは間違っています。
犬は、飼主さんの口調、態度をよくよく観察しています。
本当に敵意を持つ人間に対しては、パックを守る行動をしてくれるものです。
取りこし苦労をせずに飼犬を信じましょう。

「怖がらせる人に対して攻撃的になるのは正常な反応だ」とも考えがちです。
しかし、この行動は正常とはいえません。矯正が必要なことを認識しなければなりません。

飼主さんが過去にやってきた間違った対処(例えば知らない人への攻撃を止めさせるために撫でたりすること)を正さなければなりません。
他人への攻撃には、強く叱ったりして行動を躊躇させるべきだと思います。

その度合いは、犬、発生状況等によって違ってきます。
攻撃行動をいつでもそしてすぐにやめる程度の叱る強さを見出すことが必要です。
程度を誤ると、犬は攻撃行動をやめなかったり、逆に恐怖心のかたまりになったりしてしまいます。

「初期の段階で、飼主が“叩く”、あるいは“噛みつく”ことにより行動を矯正すれば、その後、体罰を加えなくても飼主の言うことに従うようになる」との意見もあります。

しかし、 “叩く”、“噛みつく”にはあまり賛同できません。
何か別の手段で矯正したいものです、時間はかかりますが…。

・服従訓練を行い、飼主さんの支配性を強化する
通常の服従訓練をやり直してください。
命令に対して正しく反応させることが基本です。

縄張り意識から他人への攻撃行動のある犬の約半数は、同時に支配性が絡む家族への攻撃性も持っています。
服従訓練のやり直しの過程で飼主さんの支配性を取り戻してください。

・攻撃的になった状況で訓練する
近くの公園に連れて行き、知らない人が通るような場所で服従訓練をするのも一方法です。
ただし、まずは通り道から離れたところで、そして徐々に通り道に近いところで行う方が無難です。

来客に対して攻撃的になる場合、犬が知っている人に依頼して模擬訓練を行うことも推奨されます。
呼び鈴を鳴らす、室内に入る、居間でくつろぐなどなどの一連の状況を繰り返してやってもらうのです。

呼び鈴が鳴ったときに、お座りまたは伏せをさせましょう。
模擬お客さんが室内に入り居間にいる間は、静かにするように慣らしていきましょう。

よく知っている人でうまくいくようになったら、少しだけ知っている人に同様のことを依頼して訓練を続けます。

こ知らない人が来訪したとき、家族が全く無視して、その知らない人が撫でてあげ、そして食べ物を与えるという方法もあります。
知らない人を犬が好きになるように仕向ける方法です。

同一家庭内で多頭飼育されている犬達は、一匹が知らない人に吠えつくと、他の犬もそれに参加して吠え始めます。

しかし、ある程度コントロールできるようになってからでないと少々危険です。

【ケーススタディ1/自宅での他人への攻撃行動】

実際の対処1:すぐに叱り、行動を躊躇させる
解説:吠えたり、唸ったりしたときはすぐにそれをやめるように叱る。まさに攻撃行動に移ろうとするその瞬間に躊躇させる。

実際の対処2:うまくできたときにはご褒美を
解説:他人を招き入れる場所(例えば居間)にいるときは、静かにする・攻撃的にならない・友好的である・服従するなどを訓練し、きちんとできた場合だけご褒美を与える

実際の対処3:無意識のご褒美はダメ!
解説:他人への攻撃行動に無意識のご褒美を与えないように注意する。

実際の対処4:リードなどの活用を
解説:問題が完全に解決するまでは、来客時にはリード・ロ輪・クイックマズルなどを活用する。

【ケーススタディ2/散歩中の他人への攻撃行動】

実際の対処1:リードをつけてコントロールする
解説:散歩中はリードをつけて、きちんとコントロールできるようにする。攻撃性が残っているときに、どうしても他人がいる場所に連れて行かなければならないときは口輪をする。

実際の対処2:その都度、強い口調で叱る
解説:もし他人に吠え付いたり、唸ったりした場合、その都度、それを阻止できるだけの強い口調で叱る。

実際の対処3:良い行動は褒める
解説:犬が良い行動(静かにする・攻撃的にならない・友好的である・命令を守るなど)をした場合は褒めてあげる。食べ物をご褒美にしてもよい。

実際の対処4:無意識のご褒美はダメ!
解説:攻撃行動が見られた場合、無意識に撫でたり・話しかけたり・食べ物を与えたりしない。

実際の対処5:事前にコントロールする
解説:他人が近づいて来た、まさにそのときに、名前を呼んだり、命令を与えたりして、通り過ぎるのを待つ。