翔ちゃん先生の犬の飼い方コラム

第13話

問題行動

ご近所の犬への攻撃行動の原因と対処法

1.ご近所の犬へ攻撃する原因

家庭内同居犬への攻撃も困りものですが、ご近所あるいは流行のドッグランでの他犬への攻撃性も困った問題行動です。

飼い犬がどんな犬にも八方美人的に振舞ってくれれば良いのですが、どうも気の合わない犬がいるのも現実なようです。

飼い犬の攻撃性が度を越しますとつまり会うたびに「ワンワン、ギャンギャン」ではそのうち避けられるようになりますし、場合によっては犬仲間から村八分にあいます。

今回はご近所の犬達への攻撃性(他犬への攻撃性)を取り上げることにします。

【原因のまとめ】

  • 遺伝的な性質として
  • ホルモンが影響して
  • 社会化がうまくいかなかったため
  • 苦い経験をした結果として
  • 服従訓練が不足して
  • 飼い主さんが…

・遺伝的な性質として
他に原因が思い当たらない場合、遺伝的素質が疑われることが多いようです。
攻撃性の高い犬種も確かにいます。

その遺伝的素質を生かしながら選択交配されたのが闘犬・護衛犬・番犬なのかもしれません。

でも「遺伝だから仕方がない」と諦めることはありません。
攻撃性を少しでも和らげる努力はできるのです。

・ホルモンが影響して
「去勢すると攻撃性はなくなるよ」と信じられています。
確かにご近所の犬への攻撃性は減少する例が多いようです。

雄犬の他犬への攻撃性にはなにかしら男性ホルモンの影響があるものと想像できます。
ただし、恐怖、縄張り意識、自己防衛からの攻撃性はあまり影響を受けないとされています。

雌犬間の攻撃性にも、ホルモンの関与の可能性があります。
特に発情期に多く見られたり、激しくなったりすることでもそれがうかがわれます。
優しい雌犬も発情期だけは要注意です。

通常、雄犬でも雌犬でも1~3歳のときに初めて他犬への攻撃性が認められるようになります。
年齢を考えると性成熟と攻撃性の発現が一致しています。
やはりホルモンの影響を考えたくなるところです。

・社会化がうまくいかなかったため
比較的早い時期に兄弟姉妹犬から離され、その後も他の犬との接触が少なかった個体では、他の犬と平和的に共存できないことも少なくありません。

つまり、社会化が不十分な上に、その後の経験も不足しているのです。
このような犬は、他の犬に対して恐怖を感じていることが多いようです。

さらに犬のルールに従った表現をすることも不得手ですし、他の犬のボディランゲージもなかなか理解できません。

「そばに来ないで!」と訴えている小型犬に経験不足の大型犬がノコノコと近づけばそりゃあ争いに発展します。

その上、大型犬が悪者になることが多いようです。
“攻撃的な大型犬”というレッテルを貼られてしまいます。

犬には犬の仁義があることを飼い主さんも認識しなければなりません。

・苦い経験をした結果として
過去に喧嘩をしたことがある、吠えつかれたことがある特定の犬に対して恐怖を感じ、ライバル意識もあり、攻撃的になる場合があります。

若い犬にこのような行動がみられる場合には以前に他の犬の攻撃目標になった経験があるのかもしれません。

対象が特定の個体のこともあれば、似たような体型犬種、全てが嫌いになることもあります。

それから大型犬だけが恐怖の対象になるとは限りません。
大型犬が小型犬に恐怖を感じ(過去に匂いを嗅ごうとして、鼻を噛まれたのかもしれません)、攻撃的になる場合だってあります。

・基本的な服従訓練が不足して
他犬を見ると、すぐに攻撃的になるような“わからんチン”は、基本的な服従訓練が不足していることが多いようです。

自由奔放も悪くはないのですがコントロールできる程度に服従訓練をすることは飼い主さんの最低限のマナーです。

・飼い主さんが…
飼い主さんの命令を無視する、あるいは反応が鈍い犬は、飼い主さんが他の犬との喧嘩を止めようとしてもなかなかやめません。

これは飼い主さんの支配性が不足しているのです。
上位じゃない(と犬が思っている)者のいうことなんか聞くわけがありません。

他の犬が近づいたときに恐怖を示したり、他の犬に唸ったり、攻撃しそうになったときに、飼い主さんはそれを止めようします。

そして、遊びに誘ったり、ちょっとしたご褒美を与えたり撫でたり、優しく話し掛けたりします。

これは正しいやり方でしょうか。
攻撃しようとしたときに犬はご褒美を得たことになりますよ。

恐怖を示したり、攻撃を仕掛けたりすることを飼い主さんが強化していることになるのです。
ここでもご褒美のタイミングが重要になります。

2.対処法とケーススタディ

散歩中にご近所の犬に攻撃的になる犬がいます。

雄犬同士が多いのですが、他の雌犬に攻撃的なつまり押し出しの強いアネゴ的な雌犬もいます。

なお、雌犬の攻撃対象は同一家庭内の他の雌犬であることが通常のようです。
他犬への攻撃の要因は様々です。

自己防衛、恐れ、縄張り意識、さらに捕食性からくる攻撃もありますし、過去に仲たがいをした犬をちゃんと憶えていて、攻撃する場合もあります。

また、攻撃の程度も様々です。いろんなバリエーションがあります。

【基本的な対処法】

  • 問題が起こった状況を避ける
  • 服従訓練をする
  • 問題が起こった状況で訓練する
  • 飼い主さんが・・
  • 去勢する

・問題が起こった状況を避ける
散歩中に会う敵(犬にとって)を避けるために散歩の時間・場所を変える、自由に遊ばせる場合も注意して場所を選ぶなど…
問題の起こりそうな状況を避けてやることが飼い主さんの務めかもしれません。

・服従訓練をする
犬に対しての訓練ですが、実は飼い主さんのコントロール能力を高めることが目的です。
どんな場面でも、飼い主さんの命令に対して、素早く、そして確実にそれも正しい行動をするように仕向けなければなりません。

・問題が起こった状況で訓練する
基本的な服従訓練が十分なされてからのちょいと高級な訓練です。

他の犬の前でも(その犬に恐怖を感じていても)、飼い主さんが呼ぶと戻り、お座りをして、静かに待つように訓練していきます。

つまり、どんな状況でも望まれる行動をとるように仕向けなければなりません。
ご褒美を使っても構いません。

さらに、飼い主さんが叱れば、たとえ攻撃行動を示しそうになっていても、ただちにやめるようにしなければなりません。

な~んて、書くのは簡単ですが、実際はそう簡単にはいきません。
個体差もあります。押したり引いたりしながら、地道にやる以外ありません。
魔法のような訓練方法なんて…。

「憎き敵がいても“待て”をできるようにするの?」

「敵がガウガウ唸って、飛びつきそうになっても制止するの?」

「順位をはっきりさせると攻撃行動がなくなるっていうじゃないの。うちの方が強そうだし、いっそ決着がつくまでやらせてみても・・」

いや、ちょっと待ってください。
“決着がつくまで”なんて恐ろしいことです。

お互いが傷つく場合もありますし、最悪の場合は一方が死に至ることもあります。
結局、飼い主さんのコントロールの下、ご近所の他の犬といろんな接し方を経験させることが一番の良薬かもしれません。

・飼い主さんが…
他の犬に攻撃的な犬を見ると、飼い主さんが犬をコントロールできていないことが多いようです。

つまり、飼い主さんと飼い犬の支配性の逆転問題に集約されます。
“飼い主は犬よりえらい”という支配性をきちんと確立して、それを維持しておかなければなりません。

他の犬に対して、恐れを示したり、唸ったり、攻撃しそうになったときにご褒美(撫でる、話しかけるなど)を与えてはいけません。

犬は、飼い主さんの許しを得た、飼い主さんが応援してくれていると思ってしまいます。
優しく叱ることも状況を悪化させることがあります。

リードを引く、何か嫌がる音を出すなどで対処してみましょう。
悪い行動を、いつでも、そしてすぐにやめるだけの強い刺激が必要です。

・去勢する
攻撃行動が劇的に少なくなる場合もありますが、有効率はまあ60%程度です。

【ケーススタディ】

実際の対処1:ちゃんとできればご褒美を
解説:犬が、静かにして、命令によく従い、攻撃的にならなかったときだけ、好きなご褒美を与えます。最初は、他の犬が近くにいず、静かにしているときにやってみてください。

実際の対処2:無意識のご褒美はダメ
解説:他の犬を恐がったりしたときに無意識に撫でたり話しかけたりしてはいけません。攻撃行動を強化してしまいます。

実際の対処3:制止できる強い刺激
解説:他の犬に、吠え掛かったり、唸ったりしたときは、すぐにやめるだけの強い刺激を与えます。そして、犬が静かになったら、呼んで、”お座り”伏せ”をさせ、ご褒美を与えます。叱ってやめるときはよいのですが、飼い主さんの支配性が弱いと、叱ることが攻撃性をより刺激してしまうこともあります。叱ったことを飼い主さんの応援と誤解するのです。

実際の対処4:他犬と遊ぶ時間を
解説:他の犬たちと遊ぶ時間を持つことが一番です。まずはフレンドリーな犬と遊ばせてみましょう。

実際の対処5:.犬の仁義は尊重
解説:ちょっとした喧嘩までとめる必要はありません。そのことが犬の仁義を確立するのに必要な場合もあります。ただし、よく観察して危険と思えばとめなければなりませんよ。

実際の対処6:その他
解説:他犬への攻撃性が強い場合:散歩の時間・ルートを変えてみる、散歩中は必ずリードを着ける、それでもダメなら口輪をするなどで対処してみます。雄犬同士の攻撃行動:去勢手術、ホルモン療法をやってみるのも一手段です。

3.おまけ:赤ちゃんと犬

飼い犬の攻撃性について紹介してきました。今回はそのオマケとして“赤ちゃんと犬”を書きます。

「赤ちゃんが生まれるんだけれど、大丈夫かしら?」と飼い主さんから相談されることがあります。
支配性が絡む家族への攻撃性が心配です。

その上、得体の知れない新参者の赤ちゃんがいます。
興味津々で赤ちゃんに接触しようとしても不思議ではありません。

しかし、まずは赤ちゃんの匂い、泣き声、動きなどに慣れさせなければなりません。
そして、赤ちゃんがいることで、犬がリラックスできなかったり赤ちゃんに異常な関心を示したりしないように、うまくコントロールしなければなりません。

【一般的な対処法】

  • 服従訓練をやっておく
  • 油断せずに最大限の注意を払う
  • 徐々に慣らしていく
  • 徐々犬にも愛情を注ぐ

・服従訓練をやっておく
赤ちゃんが生まれる前から、“来い”“お座り”“伏せ”“待て”の服従訓練を繰り返しておきましょう。
赤ちゃんが産院から戻ってきたとき両親ともに犬をうまくコントロールできるようになっていることが大切です。
“お座り”“伏せ”“待て”は、少し長い時間やらせてみましょう。

・油断せずに最大限の注意を払う
赤ちゃんがやって来た初日から二三日は特に重要です。
油断をせずに最大限の注意を払うようにしましょう。犬にとっては敵か味方かの区別がまだついていません。

・徐々に慣らしていく
産院からお母さんと赤ちゃんが戻ってきたとき、赤ちゃんとはすぐに対面させず、まずはお母さんだけに挨拶をさせてください。赤ちゃんはまず別室にしておきます。
赤ちゃんの匂い、泣き声などに、少なくとも数時間は慣らすようにします。

最初のご対面はリードを着けて行います。
お座りをさせ、飛びついても赤ちゃんにとどかないような距離から“ご対面”をします。
ちゃんと座って、静かにしていたら、何か好きな食べ物を与えるとよいようです。

赤ちゃんがいても、一箇所で静かにできるようになるまで上記の“遠距離ご対面”を繰り返して行いましょう。

赤ちゃんに十分に慣れ、赤ちゃんがいても静かにできるようになって初めて赤ちゃんの匂いを嗅がせてください。

なお、同じ部屋に赤ちゃんと犬だけにすることは絶対にダメです。
カーテンドア、柵などの活用するのも一案です。

・犬にも愛情を注ぐ
どうしても赤ちゃんばかりに気持ちがいってしまいます。

でも、しばらくは、犬にそれまで以上に話しかけたり、撫でてあげたり、遊んであげたりし、命令に従ったときには何かご褒美を与えるようにしましょう。

それも赤ちゃんが眠っているときより、目を覚ましていてすぐ近くにいるときに。
それから、お母さんは赤ちゃんに手がかかります。

ここで活躍しなければならないのが新米お父さんです。お父さんが犬の世話を引き受けましょう。

3-2.我が家の場合

知ったかぶりをして対処法なんて書きましたが、娘が生まれた当時はな~んにも知らなかったことをここで白状しておきます。

我が家に赤ちゃん(娘)が戻ってきたとき、既にベスを飼っていました。
ベスはまだ6か月齢でした。一応、“伏せ”を除き、基本的な服従訓練はやっていましたが遊び盛りで聞き分けももう一歩です。

まず娘を抱いたカミさんとベスを玄関先で引き合わせました。
入院中のカミさんには、一度だけですがベスを会わせたことがあります。

産院の玄関先(ベス)と二階の窓から(カミさん)の対面でした。
カミさんから撫でてもらうのは3週間ぶりです。

お尻全体を振ってとても甘えていました。
そして、産着にくるまれた娘を見上げ怪訝そうな顔をしました。

そのときです、カミさんはそのまま娘の匂いを嗅がせたのです。
さすがに舐めさせるまではしませんでしたが・・。

二三日は別室でした。しかし、すぐに娘を居間のゆりかごに寝かせるようになりました。
居間にはベスがいます。最初の近距離接近です。
既に慣れていたのかベスは異常な関心は示しませんでした。

しかし、娘に近づくことはダメと教えました。
近づけるのは、カミさんか私が抱いているときだけです。
ゆりかごから遠く離れて寝そべっていました。無関心を装っていましたが、横目でチラチラが常でした。

娘の世話をカミさんと出産手伝いに来ていたババに任せ、私はなるべくベスの相手をするようにしていました。

ただ、ババにとってベスは頭痛のタネでした。
目の中に入れても痛くない初孫です。それを大型犬と同居という危険な環境に置くのですから心配でしようがなかったようです。今は亡きババですが、本当に悪いことをしたなと思っています。

その後、ベスは娘のそばを歩くことも許されました。
しかし、舐めることは厳禁でした。

ベスはそれをきちんと守ってくれました…と思っていましたが、こちらが目を離した隙に通りすがりに娘の顔を舐めていくことを無上の楽しみにしていたようです。
ミルクの匂いに惹かれていたのかもしれません。

時がたち、娘とベスはいっしょに並んで昼寝をするまでになりました。
なお、同じ部屋に娘と犬だけにすることは、娘がかなり大きくなるまで厳禁にしていました。

娘は大の犬好きとなり(犬年生まれも関係しているのかも?)、小学校時代は“犬博士”と呼ばれていました。

動物、そしてお友達を大切にする優しい気持ちの娘に育ちました(親バカチャンリンです)。

犬との同居は情操教育にはよいようですよ。