前⼗字靭帯断裂について

前⼗字靭帯断裂について

【ご注意】以下のページには手術中の写真が含まれています。
あらかじめご了承の上お進みいただけますようお願い申し上げます。

膝関節の中にある前⼗字靭帯には、後肢が地⾯に着いた時に脛⾻(すねの⾻)が前⽅に滑っていかないように、また脛⾻が内旋して(内側にねじれて)いかないように押さえるような働きがあります。これが切れると後肢を着地させた時に膝が沈み込むようになり、歩⾏困難になります。症状が進むと⾻関節炎や半⽉板損傷が起こり、痛みを伴うようになります。
⽝の前⼗字靭帯断裂は、後肢跛⾏の原因で最も⼀般的と⾔われております。⼈間で前⼗字靭帯の断裂というとフィギュアスケートの選⼿が着氷に失敗したり、ラグビーの選⼿がタックルを受けたり、いわゆるアクシデントで切れます。⽝の場合は若い時期にボール投げやフリスビーをしていて切れる事も稀にありますが、ほとんどの場合は年齢を重ねた前⼗字靭帯⾃体が変性し、切れやすくなる事で起こります。こういった慢性断裂(Cranial cruciate disease)には、遺伝的要因や免疫学的要因、形態学的要因、⽣体⼒学的要因などがあるとされています。
膝関節では、脛⾻の上に半⽉板が乗っています。⽝の半⽉板の乗っている台には25°前後の⾓度がついています。(⼈間では⼤体8°くらいですからほぼ⽔平です。)この半⽉板の上を⼤腿⾻が滑りながら伸展(伸び)し、滑りながら屈曲(曲がり)します。

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前⼗字靭帯は後肢が着地した時に脛⾻が前⽅に押し出されないように押さえている靭帯なのでこれが切れてしまうと、脛⾻が前⽅に押し出され、結果的に⼤腿⾻が後⽅に滑り落ちてしまいます。

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前⼗字靭帯断裂の診断

レントゲン以外の診断⽅法では、まずはじめに触診を⾏います。⽂字通り触って確かめることですが、これがとても⼤切です。完全断裂では脛⾻が前の⽅向に動いてしまいます。また部分断裂では膝関節を伸展したままにしておくと疼痛が誘発されることがあります。半⽉板損傷がある⼦ではクリック⾳を感じることがあります。

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前十字靭帯が断裂するとこのように脛骨が前に動いてしまいます。(秋田犬)

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また最近ではエコー検査の精度が上がり、膝関節内を観察することで前⼗字靭帯断裂を発⾒することができます。

関節鏡で⾒る前⼗字靭帯

当院では前⼗字靭帯断裂の⼿術時には必ず関節鏡検査をして精査をします。

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健康な前⼗字靭帯はこのようにみずみずしく綺麗な線維状に⾒えます。

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完全断裂してしまうと前⼗字靭帯の連続性がなくなり、激しい滑膜炎(関節の内側の滑膜に⾒られる炎症)が認められます。

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部分断裂した前⼗字靭帯です。完全断裂の前段階と考えられ滑膜炎も起こり始めます。
この状態で診断でき、治療を開始できることが増えてきました。

半月板

関節鏡の強みはこの前⼗字靭帯の状態を関節を動かしながら、またプロービング(専⽤の道具を使い関節内の構造物を触診すること)し、しっかり評価することができることにあります。特にこの部分断裂の状態を⾁眼で評価することは難しいと思います。もう⼀つの強みは半⽉板の評価と半⽉板の処理が正確にできる点です。

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半⽉板損傷のない状態です。前⼗字靭帯部分断裂では内側半⽉板が損傷していない症例がほとんどです。

内側半⽉板の損傷している例

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上のプローブで持ち上げているのが、内側半⽉板の後⾓が損傷している状態です。このように内側半⽉板の後⾓が⼿前にひっくり返ってきていて屈伸運動の中で挟まり込んできてしまう場合はこの部位だけを切除する必要があります。

前⼗字靭帯断裂の治療

⼤きく分けると①保存療法と②外科的治療に分かれます。

①保存療法

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ただし、変形性関節症(関節の軟⾻が劣化することにより関節に痛みや腫れが⽣じ最終的には変形をきたす疾患)が進んでしまうので、⿇酔をかけられるのであれば早めに外科的治療をすることをお勧めします。

②外科的治療

⼈間で前⼗字靭帯の⼿術というと前⼗字靭帯(ACL)再建術を指しますが、⽝で同じことをしてもすぐに切れてしまい、うまくいかないことがわかっております。⽝の前⼗字靭帯断裂の⼿術には、⾮吸収性の⽷で⼤腿⾻と脛⾻を締結し、脛⾻が前⽅へ移動しないようにする⽅法LSS(関節外制動法)かTPLO やTTA に代表されるような⾻切り⼿術があります。
当院ではほとんど全ての症例でTPLO(Tibial plateau leveling osteotomy: 脛⾻⾼平部⽔平化⾻切り術) を実施しています。( 約2kg 〜70kg)

TPLO は脛⾻の半⽉板が乗っかっている台の部分を回してほぼ⽔平(約6.5°)にすることで、前⼗字靭帯がなくても歩けるようにする⼿術です。

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上のレントゲンで、術後に半⽉板の上に⼤腿⾻顆がのっていることがわかります。
また、⾜をついたときに前⼗字靭帯が引っ張られ なくなるので、部分断裂の時にも適応されます。
(部分断裂でTPLO を施すと損傷した前⼗字靭帯が回復または温存することが 証明されています。下のペーパーです。)

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症例:バーニーズマウンテンドッグ3歳45kg 去勢雄/ 前⼗字靭帯完全断裂/ 半⽉板損傷なし/LCP3.5 ブロードプレート

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症例:Mix ⽝11 歳10kg 去勢雄/ 前⼗字靭帯完全断裂/ 半⽉板損傷なし/LCP2.4mm

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症例:トイプードル12 歳5.7kg 避妊雌/ 前⼗字靭帯完全断裂/ 半⽉板損傷あり/LCP2.0mm

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症例:ビーグル3 歳11kg 去勢雄/ 前⼗字靭帯部分断裂/ 半⽉板損傷なし/LCP2.4mm

TPLO の利点
  • ⼩型⽝から超⼤型⽝まで適応可
  • 術後早期の負重ができる
  • ⾻切り部分が癒合したら、インプラントを取ることができる(約3ヶ⽉後)
  • 前⼗字靭帯の部分断裂の唯⼀の⼿術である。

前⼗字靭帯断裂を起こしていると、半⽉板を損傷することが少なくありません。半⽉板を損傷してしまうともとどおりの機能を取り戻すことは難しいです。⼗字靭帯部分断裂は完全断裂の前段階と考えられ、この状態では半⽉板の損傷が起きてしまっているということはまずありません。部分断裂の段階で⾒つけてあげられたのであれば、半⽉板損傷を起こす前にTPLO を施し、部分断裂した前⼗字靭帯を温存してあげられるとベストだと思います。
お家のわんちゃんの歩き⽅が今までと違う、痛がる、歩きたがらない等がある場合はお気軽にご相談ください。

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