第25話
病気
肝臓が腫れて大きくなった状態を肝腫大といいます。肝臓に異常がある証拠です。ただし、肝臓に病気があっても、正常な大きさであったり、逆に縮んでしまったりという場合もあります。よほど腫れない限りはっきりしません。ゆえに飼い主さんが初期に気づくことは少なく、動物病院での肝機能検査と触診で異常が発見されることが多いようです。動物病院の先生は、腫れの状態、柔らかいか硬いか、明らかなしこりがあるかなどを触って検査します(触診)。柔らかい場合は肝炎、硬い場合は肝硬変、しこりを感じるときは腫瘍などが疑われます。
肝臓の働きを少々解説しておきます。肝臓は多くの物質が生成される場所です。例えばコレステロールです。消化を助ける胆汁、いろんなホルモンの原材料になります。糖をグリコーゲンとして貯蔵する役目もあります。グリコーゲンはエネルギー源として利用されます。それから有害物質を分解して無害にする働きもあります。“肝心(肝腎)”といわれるくらい重要な臓器です。
肝臓の異常では、食欲不振、嘔吐、胃潰瘍、下痢、肝性脳症(旋回運動などの神経症状が出現)、発熱、黄疸、腹水、肝腫大など様々な症状が見られます。ただし、異常があってもほとんど症状が見られない場合もあります。肝腫大の原因は、肝臓の炎症(肝炎)、循環器障害(心臓病、フィラリア症など)、腫瘍、胆嚢・胆管障害、膿胞などです。それから薬物・毒物などで肝臓組織に損傷が起こった場合も腫大します。
心疾患及び肝疾患が重症であれば入院もありますが、一般的には通院しながら原因に対する治療をやってもらいます。心疾患、腹水があるときは塩分控えめで、運動制限とケージでの安息が必要です。脱水症状、肝性脳症などには要注意です。ただちに病院で処置してもらわなければなりません。
肝臓は沈黙の臓器と言われるように、なかなか症状が出にくい臓器です。ご自宅での体調管理も大事ですが、定期的な検診(特に血液検査、レントゲン検査、超音波検査)で病気の早期発見早期治療をしてあげましょう。
脾臓が腫れた状態を脾腫といいます。その腫れかたは、部分的にゴツゴツとした“結節性”と全体的に腫れあがる“びまん性”の二通りです。結節性脾腫は腫瘍が最も疑われ、その他に出血・炎症・感染症などが原因になります。びまん性脾腫の原因は、炎症(脾炎)・うっ血・リンパ系の過形成・細胞浸潤などです。なお、一般の飼い主さんが脾腫に気づくことはまずありません。
脾臓の役割は二つに集約されます。免疫学的働き(白血球を造る)と血液に関する働き(古くなった、あるいは異常な赤血球を破壊する、血液を貯蔵する)です。脾腫を伴う代表的な病気があります。それは脾臓捻転と血管肉腫です。それぞれ好発犬種の報告もあります。
脾腫では脾臓の働きが悪くなっています。脾臓の役割を考えるとその結末も容易に想像できます。免疫が十分に機能せず、病気に罹りやすくなります。大量の血球と血小板を脾臓が捕らえてしまいますので、血液中の血球と血小板が減少して貧血になります。また、十分な血液が供給されなくなった部分が損傷を受け、出血や壊死(えし=部分的に体の組織や細胞が死ぬこと)に至ります。
まず脾腫の原因となった病気を突き止めてもらいます。治療可能なものであれば、その病気を治療してもらいます。重度の貧血や他の臓器を圧迫して障害が出ているときなどは、手術による脾臓摘出が必要になる場合もあります。「脾臓がなくなっても大丈夫なの?」との疑問が湧くかもしれませんが、脾臓がなくなっても動物の命に別条はありません。脾臓摘出への過剰な心配はいりませんが、十分なアフターケアは必要です。
脾捻転は大型で胸の深い犬種、血管肉腫は中齢以降のゴールデンレトリーバーやラブラドールレトリーバー、ジャーマンシェパードなどで多いです。特に血管肉腫は破裂するまで症状がでないケースが多いです。該当するわんちゃんは定期的に検診(レントゲン検査や超音波検査)をすることをおすすめいたします。
体液が腹腔内に溜まった状態が腹水です。元気・食欲がなくなり、腹部が腫れぼったく、腹部を触ると嫌がります。嘔吐や体重増加が見られることもあります。伏せをするときに唸ることもあります。
腹水の原因は、循環器障害、腎臓病、胃腸病、腫瘍、腹膜炎、電解質のアンバランス、肝硬変、出血などです。臓器肥大症、腹部腫瘍、妊娠、膀胱膨満、肥満、胃拡張でも腹部が腫れますので、これらとの区別が必要です。腹部を触ると波動感(ポッチャンポッチャンした感じ)があるなら腹水の可能性大です。
腹水で思い出されるのはフィラリア感染症末期の腹水です。循環器障害からの腹水貯留です。フィラリア予防薬が普及していなかった昔のことですが、まだ若い成犬に見られ、死亡に至ることが多かったように記憶しています。
腹水は通院での加療が一般的です。治療法は原因により様々ですが、塩分制限は必須です。腹水の吸引除去が必要な場合もあります。ただし、急激な吸引は腹圧の異常変化で悪化させることもあるので要注意です。
腹水にもいろんな種類があります。それを紹介しておきます。といっても、動物病院で腹水を採取して観察しないとその性状はわかりません。
・漏出液:一般的に無色(場合によりややピンク色)で透明です。蛋白質濃度は2.5g/dL以下で、顕微鏡観察でも細胞はそれほど多くありません。
・滲出液(非化膿):ピンク色か白色で濁っています。蛋白質濃度は2.5~5.0g/dLで、細胞が観察されます。
・滲出液(化膿):赤色、白色、黄色で濁っています。蛋白質濃度は4.0g/dL以上で、観察される細胞がとても多くなります。
・血液:出血による腹水では血液が主たる成分です。上澄み液は透明ですが、沈殿物は赤色です。
・乳び(乳白色のリンパ液):乳びとは腸管から吸収された脂肪の小粒のために乳白色なったリンパ液です。リンパ管に異常があり漏れ出すことがあります。ピンク色、白色で、冷蔵庫に置くとクリーム層が分離してきます。
・尿:やや黄色で透明です。膀胱破裂のときに見られます。
・胆汁:黄色でやや濁っています。ビリルビンが検出されます。肝臓疾患で見られます。
腹水の原因は、循環不全、腫瘍、腹膜炎、臓器破裂などが考えられます。いずれもしっかりと診断し、その先の治療を考えてあげる必要があります。 腹水がたまっているかもしれないと思われましたら、お早めにご相談下さい。
消化管(胃腸)にガスが充満して膨張した状態が鼓腸(こちょう)です。猫より犬に多く、それも体をあまり動かさない犬に多いといわれています。腹部の異様な膨らみで飼い主さんが気づくこともあります。犬は不快感を示します。胃腸がおかしいのですから、嘔吐、ゴロゴロとお腹が鳴る、下痢、体重減少なども見られます。
鼓腸の原因の多くは消化不良によるものです。例えば牛乳、線維の多いフード、フードの変更などです。しかし、まれに重大な胃腸疾患の場合もあります。大型犬に多いとされる急性胃拡張症・胃捻転・腸捻転などは一刻を争う重大疾患です。
腸管のガスの源は二つあります。
一つが口から空気を飲み込んだ場合です。暴飲暴食をしたとき、呼吸器疾患を持つ場合に見られます。飲み込んだ空気は、胃に集まるかさらに奥へ、つまり腸へと進みます。口からゲップとして、あるいは肛門からおならとして放出されるか、消化管壁から吸収されて血液中に入り肺から排出されます。
もう一つの源は腸管内の異常発酵によるガスの過剰生産です。食事に関連する場合(大豆蛋白質、食物繊維、乳製品、腐敗)、小腸疾患(腸内細菌の異常増殖、腫瘍、細菌性腸炎、ウイルス性腸炎)、それから膵臓疾患などがその原因です。
胃腸疾患がある場合は動物病院での適切な治療を奨めます。フードが原因と考えられる場合は、消化の良い、低線維・低脂肪のフードを与えます。暴飲暴食が原因のときは、食事の量を減らし、そして回数を増やします。同居犬と争って食べるのはよくありません。別々にして静かな環境で食事を与えます。
大型犬の胃拡張胃捻転症候群は特に注意が必要です。食餌のあとの運動は危険です。大型犬のお散歩は食餌前に済ませておきましょう。