第22話
病気
飼い主さんが飼い犬の日常を見ていて、「なにかいつもと違うな」と感じるときがあります。
そんなときはどこかに異変(病気)があると考えた方が無難です。そりゃあそうです、毎日眺めている我が子(飼い犬)の異変にいち早く気づくのが親(飼い主)なのです。
しかし、詳しい状態がわからず、動物病院に連れて行くべきなのか、あるいは様子を見ていてよいのかがわかりません。また、動物病院に行っても、何がどのようにおかしいのかを的確に伝えることができるかというと、必ずしもそうではありません。「なんだかおかしいんです」という訴えでは、さすがの獣医さんも困ってしまいます。
そこで、「翔ちゃん先生の一言コラム」では、日常の観察ポイントに沿って、 飼い主さんがわかる範囲で病気を紹介していくことにしました。
前説として「動物病院での質問から日常観察ポイントを知る」を話します。題材によっては「ワラビーグループの診たて」として先生方の治療方針なども 追記していただければと考えています。
さて、飼い犬に下痢が見られたときに皆さんはどのようなことを考えられますか、「あれっ、どうしたんだろ、拾い食いでもしたのかな?」でしょうか。下痢の原因は様々です。 恐ろしい感染症(例えばパルボウイルス感染症)もあれば、フードが合わないこともあります。急に暑くなっての場合もあります。はたまた、隠れた内臓疾患があるかもしれません。
実は動物病院の先生方が知りたい重要な情報は、下痢に血液や粘液は混じっていなかったか、 虫(寄生虫)が混じっていなかったか、 長く続いているのか・一時的なのか、 嘔吐があるのか、他の症状はあるのか・・などです。
これらの情報は飼い主さんが一番知っていることです。 飼い主さんが「なにかおかしい」と感じることはとても大切なことですし、そのためにも日常の観察が欠かせません。
ということで、seasonⅢの趣旨は、症状からどんな病気の可能性があるのかを知り、先生の質問に的確に答え、 正しい診断で正しい治療を受けるためのものです。また、先生の話を理解する一助になればと思っています。
初診の場合はヒストリー(基本情報)を質問されます。
あるいは質問表に飼主さんが記入する場合もあります。
質問の内容は多岐に渡りますが、この基本情報が問題点の把握、病気の診断、治療方針決定に重要な役割を果たします。
品種、年齢、性別、去勢不妊の有無などが質問されます。
去勢不妊の有無は生殖器疾患を考慮したり、除外したりする基本情報です。
特定の犬種、特定の年齢、特定の性に多発する病気もあります。おおまかな方向づけをする一助になります。飼主さんの情報を聞かれることもあります。地理的な関連を考慮するためです。例えば都会に住んでいる犬と田舎に住んでいる犬ではよく見られる病気の種類が異なることがあります。
「本日はどうされましたか?」という質問があります。
飼主さんが最も気にかかる今の状態を具体的に話します。例えば「最近、水をよく飲むようになりましたし、おしっこの量と回数が多いようです。心なしか元気もないように思えます」などです。その他の情報と検査結果にもよりますが、例にある主訴であれば「腎疾患、または糖尿病の可能性?」と考えることができます。
「いつ頃病気に気がつかれましたか?」、「いつもみられますか、ときどきですか?」、「だんだん悪くなっていますか」などを質問されます。
先生が、その病気の状態、つまり急性か慢性か、進行性か、再発性かなどを把握されるためです。診断の方向づけ、類症鑑別(よく似た病気を区別する)に有用な情報です。
「今までにかかった病気、ケガなどはありますか?」、「注射、薬のアレルギーが起こったことがありますか?」などの質問があります。
特にアレルギー体質の場合は治療方針もずいぶん違ってきます。
「ワクチンは接種していますか?」、「ワクチンの種類はわかりますか?(○種ワクチンと答えられれば完璧です。ついでにメーカーもわかるとなおベターです)」、「最後の接種はいつですか?」、「ノミ・ダニ予防はしていますか?」、「フィラリア予防はしていますか?」などの質問があります。
予防できる病気もたくさんあります。そして、きちんと予防できているものは異変の原因から除外して考えることができます。
「どちらから入手されましたか?」、「現在の生活環境を教えてください(室内、ケージ、屋外で放し飼い、屋外の犬舎など)」、「散歩はどれくらい行きますか?(頻度と時間)」、「他に同居している動物はいますか?」などの質問です。
飼育環境の違いで考慮したり、除外したりする病気もあります。
「食事の種類、量、回数などを教えてください」との質問もあります。 食原病も多い昨今です。診断の助けになります。
まず先生の問診から始まります。
ヒストリー表を見ながら、一般状態、そして系統別に質問があります。先生の質問がそのまま日常観察のポイントです。系統別の質問例を別記しますが、回答できないところは観察できていないことになります。
なお、記載した質問例は石田卓夫先生監修「勤務獣医師のための臨床テクニック(チクサン出版社)」から抜粋(一部改編)しました。
問診が終わると身体検査(体重、体温、触診・聴診など)です。体重・体温測定は問診前の場合もあります。問診・身体検査が終わると、先生は、今までわかった問題を列挙し、診断の進め方の方針を決定されます。そして診断に必要な検査がされます。血液検査、尿検査、糞便検査、レントゲン検査などです。
全ての検査が終わると病気が診断され(なかなか診断が難しい病気もあります)、治療方針を決定し、飼主さんに説明があります。
いくつかの治療法がある場合は治療法の長所短所の説明があり、そして飼主さんに最終方針の決定を求められることがあります。