第21話
免疫・感染症・ワクチン
ワクチネーションとは「ワクチンを接種する」ことです。
ワクチネーションプログラムとは「どのワクチンを、どの時期に接種するか」です。
日本で市販されているワクチンにはいろんな種類があり、それぞれに特徴があります。
ワクチンの選択・接種時期は基本的に動物病院の裁量によりますがメーカーからの情報を十分に吟味する必要があります。
ワクチネーションプログラムも千差万別です。一概にどれがよいということはできません。
ワクチンには使用説明書が添付されていますが、獣医学的知識がないと何が書いてあるのかが十分に理解できません。かかりつけの動物病院の先生から簡単に説明していただくとよいと思います。
ここではある獣医さんが話された内容を参考のために紹介します。
「狂犬病予防法により、3か月齢以上の犬は飼育開始後30日以内に狂犬病ワクチンを受けることが飼主さんの義務となっています。その後、毎年1回の追加接種も義務付けられています。これはきちんと守らなければなりません。ただし、他のワクチンとの同時接種は薦めていません。少し時期をずらすようにしています。
他のワクチンについては、初年度は12~14週齢までに基礎免疫が終わるようにプログラムを組みます。
つまり、6週齢以降から3~4週間隔で3回程度接種します。これは移行抗体の影響を考慮してのことです。その後、1歳齢時に追加接種します。
これで基礎免疫が完了します。その後の追加接種は任意ですが、「転ばぬ先の杖」で健康診断とともに毎年追加接種するのが良いと思われます。
免疫機能が十分に発達していない6週齢未満でのワクチン接種は、私は奨めていません。
免疫機能が未成熟な時期でのワクチン接種は、その時には何でもなくても将来どうなるかが確認されていないからです。
ただし、致死性の高い感染症(ジステンパー、パルボウイルス感染症)のリスクが高い場合は6週齢未満でのワクチン接種もやむを得ないと考えています。
レプトスピラ予防が必要でない犬では、レプトスピラを含まない混合ワクチンを6週齢、10週齢、14週齢に接種し、1歳齢時に追加接種します。
超高齢犬については、どうしても必要な場合(例えば近所で流行しているなど)であればワクチン接種を奨めますが、それより健康診断に重きをおいた診療を心掛けるようにしています。
ワクチンが市場に出るまでにはとても長い時間が必要です。ここでは犬用のウイルス性生ワクチンを例に概略を紹介します。
ウイルス性生ワクチンを作るためには、適当なウイルス株(製造用株)を準備しなければなりません。「適当な」は「犬に接種しても安全で、かつ感染症を予防できる効力を持つ」の意です。
まず、該当ウイルスに感染した犬からウイルスを取り出します。取り出した当初は犬に病気を起こすほどの強いウイルス(野外ウイルス株)です。野外ウイルス株はそのままではワクチンに使用することはできません。病原性を弱める操作が必要です。これを“弱毒化”といいます。
野外ウイルス株を弱毒化する常套手段は、試験管内の細胞で何代も継代する方法です。
途中で突然変異が起こり、病原性が弱くなることを期待した方法です。ゆえに時間がかかります。場合によっては100代以上も継代しなければなりません。最近は遺伝子工学技術を駆使し、人工的に弱毒ウイルス株を作出する方法も行われています。
さて、弱毒化がやっと完了すると、製造用候補株が誕生です。候補株の安全性と有効性をいろんな角度から確認します。弱毒化が不十分であれば、弱毒化操作へ戻ることもあります。
候補株の安全性と有効性が確認できれば、どのような製剤にするのかを検討し(製剤設計)その後ワクチンを試しに製造します。出来上がったワクチンを試作ワクチンといいます。
試作ワクチンについても安全性、有効性、さらに安定性を検討します。この段階まで来て「ダメだからふりだしに戻る」こともあります。実験室内での試験が終了すると、次に試作ワクチンで臨床試験を行います。
ふ~っ、これだけでもずいぶん長い道のりです。
実験室内及び臨床試験が全て終了したら試験成績を取りまとめ、製造販売承認申請を農林水産省に提出します。提出された申請書について厳しい審査があります。審査をするのは薬事審議会です。全ての審査が終了してOKであれば、承認書が発行され認可となります。
承認書を受領して、やっと製造が開始されます。
製造したワクチンはメーカーの品質検査及び国の品質検査を経てつまりダブルチェックされて市場に供給されます。ワクチンが市場に現れるまでには、開発着手から10年以上かかることも稀ではありません。
これで終わりではありません。新しい製剤については通常6年間にわたり市販後調査をし、その安全性と有効性をさらに広く立証しなければなりません。そして再び審査を受けます。これを再審査といいます。最初の認可はいわば仮免許で、再審査が終わって本免許となります。
皆さんが獣医さんで注射してもらうワクチンを作るということは、本当に大変なことなのです。
“ワクチンブレーク(Vaccine break)”という言葉をご存知ですか。
ワクチンの働きにブレーキがかかり、効き目が十分に現れなかった状態をワクチンブレークと言います。
例えば・・・
「動物病院でワクチンをきちんと打ってもらったのに、○○感染症にかかっちゃって・・なぜ効かなかったのかなぁ?」…という話を聞くことがあります。
どうしたのでしょう。ワクチンの効き目を阻害する何らかの要因があったのでしょうか。
今回は可能性のある要因を、犬側、ワクチン側、そしてヒューマンエラーに分けて紹介します。なお、広い意味ですとワクチンによる副反応もワクチンブレークですが、それは次回紹介します。
犬側の要因を下記に示します。 ワクチンを接種しても十分に免疫を付与できないことがある犬です。
場合によっては副反応を誘発したり、増悪したりすることもあります。
最も重要な要因は2・7だと思っています。
【1】 免疫機能に障害のある犬
【2】移行抗体のレベルが高すぎる犬
【3】極端な若齢犬、あるいは老齢犬
【4】妊娠犬
【5】ストレスに曝されている犬、病気の犬
【6】発熱、低体温の犬
【7】ワクチン接種時に既に感染している、あるいはワクチンによる免疫が成立する前に感染した犬
【8】免疫を抑制する薬剤が投与されている犬
【9】一般状態、栄養状態が悪い犬
【2】について
出産後初期のお乳を初乳(しょにゅう)と言いますが、その初乳で母犬から子犬に移行抗体が移されます。子犬を守るためです。
しかし、このレベルが高いときはワクチンによる免疫成立も阻害してしまいます。特にジステンパー、パルボ(いずれも生ワクチン)は移行抗体の影響を強く受けます。これらのワクチンを子犬に接種する場合は移行抗体のレベルが下がるのを待つか3~4週間隔で複数回のワクチネーションを行うことで対処することになります。
12~14週齢に最終のワクチネーションを行うのは主としてパルボウイルスに対する免疫を獲得させることが目的です
【I期】
移行抗体のレベルが高い。 感染症を予防できるが、ワクチンを接種しても免疫の付与が難しい。
【II期】
移行抗体のレベルが下がり、感染症に無防備となる。しかし、ワクチン接種にはまだ早すぎる。この時期を「免疫学的ギャップ」といい、最も危険な時期とされています。
【III期】
移行抗体が十分に低下し、ワクチン接種で免疫を付与できる。
【7】について
ワクチンを接種する前、あるいはワクチンによる免疫が成立する前に、不幸にも感染する場合もあります。これに対抗することはできません。
ある事例を紹介します。 「ワクチンを打った翌日からひどい下痢をして調子が悪い。ワクチンに毒が入っていたのではないか」と 飼主さんからクレームがありました。
ワクチン接種時に健康であれば、ワクチンを接種しても下痢をすることはまずありません。 この犬の糞便を検査したところ、パルボウイルスが見つかりました。 それもワクチンウイルスではないことがわかりました。
つまり、この犬はワクチン接種時に既に感染しており、症状がでる直前だったと理解できます。最近はウイルスの遺伝子を調べることでワクチンウイルスかどうかを区別することも可能になりました。
ワクチン側の要因としては
(1)ワクチンの効力は100%ではない
(2)弱毒化しすぎたウイルスの使用
(3)野外感染が強く起こった
(4)保管の失敗
(5)有効期限切れ
です。
「(1)ワクチンの効力は100%ではない」について追加説明します。
ワクチンが正しく接種されていれば、その効力は100%であると思いがちです。
しかし、何事にも完全であることは難しいことです。特定の犬種、特定の家系に、特定のウイルスに対してうまく免疫応答しないこともあります。例えばロットワイラーとドーベルマンの中にはパルボウイルスに対して正しく免疫応答をしない場合があります。
つまり、ワクチネーションをしても抗体価が十分に上昇しないのです。
同様にグレイハウンドの中にもジステンパーウイルスに対して免疫応答が弱い家系があります。
その他、種々の要因がありますが、ワクチンの効力は80%以上と考えることが専門家の間では一般的です。 実例は少ないのですが、「(4)保管の失敗」があります。
ワクチンの安定性は低温(10℃以下)保存で保証されています。特に生ワクチンは高温に弱いのです。
ワクチンはメーカーの冷蔵庫、代理店の冷蔵庫、動物病院の冷蔵庫と転々と移動します。
どこかで冷蔵庫の故障があると、とたんにワクチンの効力が保証できなくなります。なお、不活化ワクチンでは凍結しないことも保管条件となっています。
ヒューマンエラーには
(1)ワクチンの溶解方法の間違い
(2)ワクチネーション時期の間違い
(3)効力に影響する薬剤の同時使用
(4)ワクチネーション間隔の間違い
(5)ワクチン接種経路の間違い
(6)追加接種忘れ
などがあります。いずれも動物病院でのエラーです。
なお、獣医さんの名誉のために付け加えますが、極めてまれなエラーです。
ワクチンには使用説明書が添付されています。
その中から飼主さん向けの注意事項を紹介します。
インフォームド・コンセントの一環として、丁寧に説明してくださる先生も多くなりました。なお、使用説明書には動物病院の先生への注意事項も記載されています。
「移行抗体と接種時期」、「他のワクチンとの接種間隔」、「接種の準備」、「接種時の注意」、「ワクチンの保管方法」などについてです。これらについては割愛させていただきます。
ワクチネーション前に重要なことは、犬が健康であることを確認できていることです。
動物病院の先生の問診(聞き取り調査)、視診、聴診、体温測定、体重測定、血液検査等はその犬の健康状態を知るための必須事項です。これをおざなりにするとワクチネーション後に様々な問題が起こることがあります。
ワクチンの使用説明書には「以下の場合は接種の適否の判断を慎重に行い、注意して対応してください」と記載されています。枠内に“ワクチネーションを見合わせる”場合を示します。
いくつかの悪い実例を紹介します。こうあってはならないという教訓です。
ワクチネーション前の健康診断の重要性、あるいは事前の注意を痛感させられます。
【実例1】
13歳を超える老犬を炎天下で約1時間歩かせて動物病院へ行き、ワクチンを接種してもらいました。
再び炎天下を歩かせて帰宅しようとしましたが、途中でその老犬は倒れてしまいました。
救急救命措置も間に合わず、結局死亡してしまいました。この犬は熱中症で死亡したことが後日の検査でわかりました。
【実例2】
1歳を超えたばかりの犬です。先日より鼻水が出ていたそうですが、当日は問題ないように見えたので無理を言ってワクチンを接種してもらいました。翌々日から高熱を発し、呼吸器症状もひどくなり、動物病院に駆け込みました。幸い、動物病院の適切な処置により一命は取り留めましたが肺炎を起こしていたそうです。
【実例3】
興奮状態にある犬を飼主さんが無理におさえてワクチンを接種してもらいました。
接種直後からぐったりし、その後死亡に至りました。最初はワクチンによるショックが疑われたのですが、検査したところ、脊椎損傷による出血死であることがわかりました。
ワクチネーションに伴い副反応が出る場合あります(副反応については別途紹介します)。 ワクチネーション後も犬を十分に観察することが最も重要です。
異常な副反応でない限り、経過観察でよいのですが、異常な場合は適切な措置が必要になります。下記にまとめを記載します。
【1】
ワクチネーション後は、できれば動物病院の近くにいてあるいは直ぐに動物病院に戻れるようにして30分~1時間程度は飼い犬を十分に観察してください。
過敏な体質の犬では、アレルギー反応(顔面腫脹、蕁麻疹等)アナフィラキシー反応(ショック状態)を起こすことがあります。直ちに先生に措置をお願いしなければなりません。ワクチネーションが済んだからといって、すぐに帰ってはなりません。
【2】
帰宅後、まれに元気・食欲減退、発熱、嘔吐、下痢、接種部位の痛み・腫脹などが見られることがあります。ほとんどの場合が経過観察で大丈夫です。ただし、措置が必要な場合もありますので、そのようなことが起こったら動物病院にまず相談してください。
これも飼い犬を十分に観察しておかなければわからないことです。
【3】
二、三日は安静につとめ、シャンプーや激しい運動は避けてください。
一般的には、普通の生活をさせても問題が起こることはありません。しかし、念には念を入れてください。
【4】
特に初年度の犬は、最終のワクチネーション(14週齢前後)が終了するまで他の犬との接触を避けてください。といっても、ちょうどこの時期は犬の社会化にとっても重要な時期です。パピーパーティーなどに参加させる場合は、お互いに感染のリスクを共有する腹積もりが必要です。
異物に対して生体は様々な防衛反応を示します。
ワクチンもいわば異物ですので、これを排除しようとして炎症反応が起こります。
その結果として免疫が獲得できます。ゆえにワクチンが効力を発揮するためには正常な防衛反応がなくてはならないといえます。
ワクチン接種後に軽度の全身反応(元気・食欲の減退、嘔吐、下痢など)が見られることがあります。 全身反応はワクチン接種後1週間以内にはなくなります。 軽度(正常な炎症反応の範囲)である限り、問題はありません。
不活化ワクチン接種後に多いのですが、接種部位に痛み・腫脹を伴う場合があります。
痛みは「組織になんらかの障害が発生しているよ」という警鐘です。腫脹は異物を希釈し、白血球による異物排除を容易にする役目があります。
正常な炎症反応も時として「過剰」になることがあります。異常かつ病的な炎症反応です。
病的炎症は生体防衛反応から生体障害反応(機能低下・機能障害)への逆転です。
さらにアレルギー反応、そしてアナフィラキシー反応へとつながっていきます。
アレルギー反応としては顔面腫脹(ムーンフェイス)、かゆみ、蕁麻疹などがあります。
何らかの措置を必要とする場合もありますが、死に至ることはほとんどありません。ただし、次回のワクチン接種のときはより注意を払わなければなりません。より重度のアナフィラキシー反応を誘発することがあるからです。
重篤な病的炎症がアナフィラキシー反応です。アナフィラキシー反応ではショック状態に陥ります。ぐったりして、貧血をおこし、血圧は低下し、呼吸が速くなります。急いで措置しないと、最終的に呼吸困難・体温低下・痙攣等が起こり死に至ります。
アナフィラキシー反応に対しては「A、B、C、D」で措置されます。
AはAirway、つまり気道確保です。
BはBreathing(酸素吸入)、CはCirculation(血管確保)、DがDrug(薬剤療法)です。
いずれにしても直ちに動物病院で治療を受けなければなりません。
レルギーという言葉の語源はギリシャ語です。アロース(allos)とエルゴン(ergon)の合成語ですが、「変化する」と「力、働き」という意味です。1回でもなにか起こると体の反応が変わってしまうことを意味しています。アナフィラキシーの語源もギリシャ語で「無防備」の意味です。
アレルギーを起こす抗原をアレルゲンといいます。
アレルゲンはワクチン中に含まれる不純物であることが多いのですが、不純物が一度体の中に入り、これに反応しやすくなっているところに再度不純物が入ることにより病的炎症を誘発するのです。
米国で出版されている書籍に、副反応とそれを起こしやすいワクチンが列記されていましたので紹介します。可能性があるものとして理解してください。
・病的炎症反応1
アレルギー・アナフィラキシー
可能性があるワクチン:レプトスピラワクチン、狂犬病ワクチン、パルボ生ワクチン、ジステンパー生ワクチン
・病的炎症反応2
接種部位の痛み・腫れ
可能性があるワクチン:細菌性不活性ワクチン、アジュバント入りのウイルス性不活性化ワクチン
・病的炎症反応3
発熱、元気減退
可能性があるワクチン:全ての生ワクチン
・病的炎症反応4
神経障害
可能性があるワクチン:狂犬病ワクチン、ジステンパー生ワクチン
・病的炎症反応5
脳炎
可能性があるワクチン:ジステンパー生ワクチン、狂犬病ワクチン
・病的炎症反応6
流産
可能性があるワクチン:妊娠中の生ワクチン
・病的炎症反応7
可能性があるワクチン:全ての生ワクチン
将来のワクチンの研究が国内外で進められています。
ここではどのようなワクチンが考えられているのかを紹介します。
諸外国では既に市販されている製品もあります。少し専門的になりますが、さらりと斜め読みしてください。ワクチン研究者達は素朴な疑問を持っています(下)。この素朴な疑問を解決するために英知を絞りたいと考えています。
通常、弱毒株を作出するためには多くの時間が費やされます。
「弱毒株をもっと簡単に作り出せれば、生ワクチン開発も楽なのに」と研究者達は考えます。これを解決する一つの方法が、遺伝子操作を駆使して特定遺伝子を欠損させることです。短期間で弱毒株を作ることが可能になります。
つまり、自然に任せず、人の手で積極的に弱毒株を作り出すのです。
病原体が持っている遺伝子は様々ですがその遺伝子群から病原性に関わりのある遺伝子を損させたワクチンが“欠損ワクチン”です。かといって、病原体が子孫を作るときに関わる遺伝子(増殖性に関与する遺伝子)を無くしてしまうと、ワクチンを作ることができません。
あくまでも増殖性には無関係で、病原性に深く関わる遺伝子を削除したワクチンが欠損ワクチンです。
正現在市販されているワクチンは混合ワクチン(多価ワクチン)が主流です。
一つのワクチンにいろんな病原体が入っています。混合ワクチンを製造するのは大変です。
免疫を付与するために重要な遺伝子を有効抗原遺伝子といいますが、運び屋ウイルス(ベクター)に有効抗原遺伝子を挿入したワクチンが“組換えベクターワクチン”です。
大型のベクターには数種類の有効抗原遺伝子を導入できます。運び屋ウイルスに多種類の有効抗原を入れた人工的な多価ワクチンを作ることが将来可能になるのかもしれません。
特に狂犬病の感染源である野生動物のワクチネーションに効力を発揮しています。
カナリア痘ウイルス・ベクターにジステンパーウイルスの有効抗原遺伝子を挿入したワクチンも外国では市販されています。
純粋で副反応の少ないワクチンを目標として病原体から有効抗原だけを精製して作られたワクチンもあります。“精製サブユニットワクチン”です。レプトスラ菌の外膜蛋白だけを精製して作られたワクチンがこの実例です。
病原体から有効抗原だけを精製するのは煩雑で大変な作業ですが、有効抗原を大腸菌、昆虫ウイルスに作らせることも可能です。
作られた蛋白(組換え蛋白=抗原)を使ったワクチンを“組換え蛋白ワクチン”といいます。
製造するのも楽ですし、安く作ることができます。副反応の少ないワクチンとして注目されます。
特に狂犬病の感染源である野生動物のワクチネーションに効力を発揮しています。カナリア痘ウイルス・ベクターにジステンパーウイルスの有効抗原遺伝子を挿入したワクチンも外国では市販されています。
有効抗原遺伝子そのものをワクチンとして使おうという動きもあります。
応用までには多くの課題が残されていますが、現行ワクチンの弱点(例えば移行抗体の影響を受けやすい)を克服できるワクチンとして注目されるところです。
新興病、復興病という言葉があります。新興病は新しく出現した病気です。復興病とは駆逐できたはずなのに再び猛威をふるい始めた病気です。感染症と闘う研究者達は、新興病の予防に向けての闘いにも力を注ぎ、「何が変わったのか」を見極めて復興病との闘いも継続しています。