翔ちゃん先生の犬の飼い方コラム

第49話

栄養と食事

「食事の話」の付録

付録1(自然食材による害)

自然食材を使った手作り食の良さについて多くの書籍が出版されています。詳細はそれらに譲ることにして、その良さを認めた上で注意すべき点について紹介します。急性中毒を起こす可能性がある食材の話とご理解ください。なお、誤って摂取してしまった化学物質(除草剤、殺虫剤など)は除くことにします。あくまでも自然にあるものによる害です。

「犬族は、ごみあさりをする(拾い食いをする)し、大食いだし、食べて良い物か悪い物かを区別する能力に欠落がある」と言われています。毒物を摂取するチャンスが多いと言わざるを得ません。ただ、神様はとても良い性質を犬族に与えていらっしゃいます。それはすぐに嘔吐することです。「おかしいな」と感じたら、嘔吐して体外に排出するのです。犬族は嘔吐によって食物からの害毒をなるべく回避していると言えるのかもしれません。

肉食動物は、草食動物に比べ、植物による中毒の発生率は低いようです(あたりまえかもしれませんが)。肉食動物でみられる中毒は、すでに中毒を起こしているもの(例えば有毒植物を食べた草食動物の腸)を食べて生じる二次的な害が大きいと言われています。麻酔薬で安楽死させた新鮮馬肉を食べて麻酔薬中毒を起こした例も報告されています。

まず、食材全般の注意点を箇条書きにします。また、手作り食に使われることはありませんが、有毒植物、有毒動物、重金属についても記載しておきます。

【食材全般(手作り食に使われる食材についての注意点)】
  1. 特定の栄養素が不均衡になっていないか(例えば、肉類ばかりだとリンの過剰になります、レバーを与えすぎるとビタミンA過剰になります)
  2. 添加物はどうか(有害な添加物は入っていないか)
  3. 汚染はないか(カビ、細菌の汚染も問題ですが、動物組織に残った薬物による中毒もあります)
  4. 機械的損傷を与える異物はないか(骨片などで消化器を傷つけることもあります)
  5. 寄生虫の汚染はないか(その恐れのあるものは火を通して)
【有毒植物】

タマネギを大量に食べさせてはいけません。アルカロイドが問題です。犬では、このアルカロイドが多量に体内に入ると、赤血球傷害がみられます。

チョコレートの中のテオブロミンも中毒物質です。嘔吐、下痢、突然の衰弱などがみられます。

屋内観賞用植物にサトイモ科の植物があります。これらの植物がもつシュウ酸カルシウム・シュウ酸塩は粘膜を刺激します。口、舌、のどなどがピリピリ・ヒリヒリします。なお、シュウ酸カルシウムを含む植物はサトイモ科以外にもあります。

犬族も毒キノコには勝てません。中毒を起こしやすいキノコに、ベニテングタケ、タマゴテングタケなどがあるようです。

夏場の池の表面に藻類が増殖していることがあります。全てではありませんが、有毒な藻類もあります。有毒藻類は肝毒性、神経毒性の物質を生産しています。泳ぎながら表面の藻類を食べることはありません。むしろ、泳いだあとに毛を舐めることで中毒を起こすことがあります。

【有毒動物】

ヒキガエルなんて代表格かもしれません。クンクンとにおっているときに毒液が目に入るとさあ大変です。それから、野山に犬連れで出かけることが好きな方は毒蛇にも要注意です。

【重金属】

犬に多いのは鉛中毒による貧血です。その原因は鉛を多く含む古いペンキだそうです。古いペンキを塗った板切れをおもちゃとして与えた結果ということもあるのかもしれません。ただし、家の壁のペンキ塗りが好きな米国での話かもしれません。

付録2(食物感受性)

“食物感受性”は聞き慣れない言葉です。食物を食べて有害反応が出現することと理解してください。ある食物を、消化できない場合もありますし、体内で処理できない場合もあります。いずれもなんらかの異常反応が出てきます。犬で一般的な症状は皮膚と腸管に関連したものです。皮膚では、まず痒み・湿疹です。それが化膿・脱毛へと進みます。腸管に関連したものは下痢と嘔吐です。

食物感受性は二つに大別されます。免疫が関与する「食物アレルギー」と関与しない「食物不耐症」です。

①食物アレルギー(食物過敏症)

犬の一生を考えてみますと、莫大な量の抗原(高分子の蛋白質など)が食品から供給されていると言えます(人間も同様です)。幸い、腸管には高分子の物質を吸収しないバリアーがあります。体内に吸収されて抗原性を発揮させないためです。しかし、このバリアーは完全ではありません。ときとして高分子のまま体内に取り込まれ、それが抗原(この場合はアレルゲン)となって抗体(IgE)が産生されます。再び抗原が侵入してきたときに、抗体が反応し、結果として肥満細胞から化学伝達物質(ヒスタミンなど)が放出され、アレルギーを引き起こすことがあります。これが食物アレルギーです。

(参考:肥満細胞は皮下などに分布している細胞です。この細胞は、内部にヒスタミン、セロトニンなどの化学伝達物質を貯蔵し、表面上にはIgE受容器を持っています。アレルゲンとIgEが反応し、それが肥満細胞の表面上に結合すると、脱顆粒という現象が起こります。これが肥満細胞からの化学伝達物質放出です。放出された化学伝達物質はいろんな有害反応を起こします)

全ての肉類、牛乳、卵、麦、トウモロコシ、大豆、米粉、ジャガイモなどがアレルゲンになります。それから缶詰食品、ドッグビスケット、ドッグフード、さらに添加物(着色剤、保存剤)がアレルゲンになることもあります。食物アレルギーの犬の大半は、困ったことに、食物の主要成分に反応するようです。

② 食物不耐症

食物不耐症の代表は牛乳中の乳糖に対する不耐症です。乳糖は二糖類です。腸管から吸収されるためには、ラクターゼという酵素で小さく消化(単糖に分解)されなければなりません。子犬はそれなりのラクターゼを持っていますが、成犬はそうではありません。消化できない乳糖が腸内細菌によって利用され異常発酵してしまいます。とたんに下痢です。なお、牛乳中のカゼインはアレルゲンにもなります。食物アレルギーとして牛乳を受けつけない犬もいます。

ヒスタミンをもともと含有している食品もあります。発酵したチーズ、ビーフソーセージ、豚の肝臓、ツナ缶詰などです。人間のサバ中毒はまさにこれです。サバ科魚類を不適切な貯蔵条件に置くとその体内でヒスタミンが作られ、高濃度になると中毒の原因になります。

また、体内の肥満細胞からヒスタミンを放出させる食品もあります。ヒスタミンを放出させますので、結果としてアレルギー様症状がみられることになります。卵白、甲殻類(エビ、カニなど)、チョコレート、イチゴ、トマトなどです。

※食物チャレンジ(おまけ)

原因となる食品を見つけ出す手段に“食物チャレンジ”という方法があります。ある特定の食品を除外した食事を一定期間与え、その後特定食品を含む食事を与えて様子を見る方法です。通常、除外食を2週間~3週間与え、何か改善が見られたら元の食事に戻してみます。除外食で好転していたものが再び悪化するようであれば、食物が関連するアレルギーを疑うことになります。

犬用の除外食は、動物性蛋白質源を牛肉以外とし、炭水化物源が米・ジャガイモであることが多いようです。ある書籍には「鶏肉と米の組み合わせがうまくいっている」と書いてありました。除外食も処方食の一種です。ある市販品は、蛋白質源として加水分解した(小さな分子にしてアレルゲンにならないようにした)蛋白質を用い、皮膚のために必須脂肪酸を多めにし、さらに高消化性の炭水化物を用いていました。別の市販品は、アレルゲンとならないような蛋白質を選択して用い、胃腸に負担にならない高消化性のフードでした。

(参考:ここでは除外食だけを記載しました。潜在的にアレルゲンを持つ食物を1~2種類入れた“制限食”を使用して、原因食品を特定していく方法もあります。話が混乱しますので、ここでは除外食に限定した記載としました)

付録3(栄養学的アプローチが可能な疾患)

シーズンⅣ「食事の話」も最終回になりました。これまで取り上げてはいませんが、栄養学的アプローチが可能な疾患について追加解説します。飼主さんができそうな方法だけを記載します。ひどいときには動物病院での診療が必要です。

①貧血

貧血では赤血球生成を加速させなければなりません。十分な栄養を与える必要があります。貧血が改善されるまでは成長期用のフードに替えます。ビタミン、ミネラルも必要です。手っ取り早い方法は、生のレバーを成長期用フードに追加することです。生レバーには赤血球生成に重要な栄養素の大部分が含まれています。ただし与え過ぎは禁物です。

②抗生物質療法中は・・

抗生物質を経口投与している犬では、腸内細菌が壊されることがあります。その結果、腸内細菌が産生しているビタミンが不足します。ビタミンB群を補給しなければなりません。通常の食事に、整腸剤(エビ○○とか)を与えるといいようです。

③便秘

腸内容の量を増やし、収縮力を増して、大腸内に水分が十分に保持できるようにします。そのために、低脂肪・高繊維質のフードを与え、新鮮な水がいつでも飲めるようにしておきます。食後30~60分してちょっとした運動をさせることは排便を促します。便秘を起こしがちな骨、羽毛、皮革、その他異物を食べないように注意し、排便の障害になるような外傷があれば治療をしなければなりません。

④ストレス

寒冷・高温気候、各種作業(ドッグショー出場、警備、盲導など)でストレスを受ける環境下にある場合は、高カロリーで高嗜好性のフードを与えます。ただし栄養バランスには要注意です。缶詰フードを利用したり、ドライフードに温湯をかけたりして、嗜好性を高めます。

⑤発熱

体温が上昇すると代謝エネルギーがよけいに必要になります。エネルギーを補填しなければなりません。高蛋白・高エネルギーのフードを与えたり、食事の量を多めにしたりします。熱があると食欲も落ちます。嗜好性を高めることも必要です。

⑥膨満

消化管内にガスが異常発生した状態が膨満です。ガス発生を促進するフード(豆類、ジャガイモ、乳製品など)を避け、消化のよい低蛋白フードが推奨されます。ただし、ガス発生の原因となる食物については犬によって著しい個体差があるようです。例えば、ジャガイモを制限することで改善される犬もいれば、そうでない犬もいるということです。

興奮して食べると、同時に空気も飲み込んでしまいます。これが膨満の原因になります。食事は1日に3回以上に分けて、静かな環境で与えましょう。また、平らな皿で与えると空気を飲み込むことが少ないそうです。

⑦骨折

破壊された骨を再生させるようにしなければなりません。かといって、カルシウム・リンなどをむやみに添加することは逆効果になる場合があります。ギブスが取れるまで、あるいは完全に治癒するまで、成長期用フードを与えることが推奨されています。

⑧消化管の手術

食道・胃の手術後は高消化率の缶詰フードに水を加えてポタージュ状にしたものを与えます。それも1日に3~6回、少量ずつです。その後、数日かけて水の量を減らしていきます。手術後2~3週間したら、徐々に普通の食事に切り替えていきます。
腸の手術後は、腸が動き始めて高消化率のフードに水を混合し、1日に4~6回、少量ずつ分け与えます。

※この回をもちまして、「翔ちゃん先生の一言コラム」は終了いたします。
これまでご愛読いただき、誠にありがとうございました。